ある日、フランスのチャリティーイベントにて
24時間テレビのCMを見て、フランスのチャリティーイベントを思い出した。
フランスでもテレビ局が募金活動を行う特番がある。私が見た番組は、ミミ・マティ(Josephine,ange gardienなどに出演している女優・コメディアンであり歌手)が司会を務め、著名な俳優・歌手が寸劇や歌を披露していた。当時、映画『コーラス』の大ヒットを受け、ジャン=バティスト・モニエやジェラール・ジュニョが俳優たちと聖歌隊の寸劇を行っていた。コメディ調だったし、みんなが『8時だよ 全員集合』の少年少女合唱隊のような衣装(古くてすみません……)を着ていたので、意味が分からなくとも何だか可笑しい。指揮者役のジュニョがメンバーに歌を促すものの、そっぽを向いていたりハモらなかったりで苦戦している。そこでジュニョはモニエに「お手本を見せて」と振る。モニエは映画の主題歌である『les choristes』を歌い始めるのだが、即座にジュニョから「それはもういいから」と遮られてしまう。観覧者大ブーイング。モニエがまだ子どもだったことや、彼の歌声を聴きたい人々が、「子どもに優しく!」とか、「最後まで歌わせて!」という意味を込めてブーイングを行っていたようだ。
また、これ以外でも、観覧者からブーイングが起こることがあった。例えば、司会のミミが
「今日の内容はすべてCDに収録されるけど、コピーとかしないで!」
と呼び掛けたときも、みんなブーイングしていた(海賊版反対!という意味かと思われる)。このチャリティーは、番組の内容が収録されたCD(DVDではない)を販売し、その収益(一部か全額かは失念)がチャリティ団体に寄付されるというものだった。そのため、コピーへの反対はもちろん、トーク内容がつまらなかったり、歌が中途半端だったりしても、観覧者は容赦なく「ブー!」を連呼していた(買わないぞ、ってこと?!)。
観覧者だけでなく、一緒に番組を見ていたホームステイ先のヴァイキング家族も同じで、ところどころでブーイングしていた。娘は、何度も同じ女優さんが登場したとき、
「また?!何でこの人ばっかり出るの?」
と言ってテレビの前で指を下にし、「ブー!」とやっていた。
後日私は、フナック(本やCD/DVD、電化製品を扱う店舗)の視聴コーナーでこの番組のCDを聞いてみた。ちょっとくらい加工されているのだろうと思っていたのだが、本当に内容すべて、ブーイングもそのまんま収録されていた。ライブ感はあるけど、聴き取りにくい~!確かに、チャリティとはいえこれを買うとなると、面白いトークであって欲しいし、歌は最後まで聴きたいよねぇ、という気持ちになる。DVDならまだしも、また、特定のファンがいるならともかく、声だけの寸劇の様子や途中までしか歌われていない曲のCDって……。
結局、私はちょこっと視聴しただけで買わなかった(ゴメンナサイ)。
そのほか、別のチャリティーイベントに参加したときのこと。街で開催されるコンサートの入場料が寄付金になるということで、ヴァイキング家族の娘から誘われた。ホームステイ初日に娘のご不興を買い、どうやったら仲良くなれるか思案していたときのお誘いだったため、私は仲直りのきっかけになれば、と喜んで参加することにした。娘の友達3人も来ることになっていて、当日はコンサートホール入口で合流することになっていた。入口は大混雑。料金は事前徴収ということで娘に支払い済みだったため、なぜ混むのだろうと思っていたところ、入場の際、みんな何かを受け取っているためだと分かった。係員から渡されたのは、茎の長い真紅のバラ1本。わぁ、これいただけるの?とテンションが上がる。
席は、1階と2階があるホールの2階後方。どうやら私たちは指定席ではないようで(1階は指定で2階は自由になっている様子)、開演ギリギリに入ったため、かなりステージから遠い場所に5人が座れる席をやっと見つけたという状況だった。前方の席の人たちがいるから、舞台上を確認するには首を上下左右に振らないといけない。参加したアーティストをほとんど知らない私としては、誰が出てきてもそこまでして確かめようとは思わなかった。どうやら有名人はわずかだったらしく、他の聴衆もあまりキョロキョロすることなく、チャリティー目的でコンサートに来ているようだった。ゆったりした雰囲気で音楽を楽しむ人が多いなか、落ち着きのない素振りを見せる10代くらいの女の子たちがいた。音楽に耳を傾ける様子はなく、ソワソワと身体を振っていたり、顔を寄せ合いヒソヒソと話をしては声を抑えて笑ったりしている。この子たち、音楽を聴いていないようなのにどうしてお金を払ってまで来たのだろう?と思っていたところ、entracte(小休止)のアナウンスが入った。
「席を取られないよう、花を置いていくわよ」
娘からそう言われたが、正直私は花を放置したくなかった。
(自由席だけど、こんな席がいいって人はいないのでは?それより、バラの方が心配なんだけど……。)
そんなことを言える勇気はなく、娘との関係を優先した私。後ろ髪を引かれつつ、席を立った。
数分して席に戻ったとき、バラは跡形なく消えていた。私は落ちたり潰されたりを心配していたのだが、取っていった人がいるのだ。そして、その犯人は暫くして判明することになる。
突然1階が騒がしくなり、「キャーッ!」という歓喜の悲鳴がステージ近くの席から上がった。覗き込むように見てみると、若い女の子の集団で、通路にも詰めかけている。先ほどの10代くらいの女の子たちが見当たらなかったので、恐らくあの中にいるのだろう。彼女たちは舞台に上ろうとする勢いで前のめりになっている。係員は制止するのに精一杯といったところだ。ステージでは彼女たちと同年代くらいの男性グループが元気に歌い始めた。1人の男の子が前に出ると、女の子たちは舞台にバラを投げ込む。別の男の子が前に出たときも同様。彼女たちはそれぞれお目当ての男の子にバラを投げているようだった。入口で渡されたバラは1人1本だったが、彼女たちは手に数本持っているから、私たちのバラも含まれていると思われる。
他にもバラを取られたらしき大人たちは「やれやれ」といった感じで肩をすくめていたが、私としてはモヤモヤが残る結果となってしまった。
私はバラのことでモヤモヤしてしまったが、きっかけがファン目当てであったとしても、チャリティーで貢献していることに変わりはない。フランスでも日本でも、寄付で集まったものが必要とされる人たちに届き、みんなが笑顔になれますように。