ある日、おひとついかが?

フランス人が夕食に招待したりされたりしたとき、食事に入る前の時間が長い。お酒とおつまみで歓談するこの時間はアペロと呼ばれ、それ自体を楽しむパーティーもあったりする。
フランス人は普段からよく喋る。外国人が彼らの会話になかなか入っていけないと感じるとしたら、言葉の拙さよりもタイミングではないかと思う。誰かが話していると相槌やら感嘆やらが飛び交い、話が終わっていなくても「ecoute(聞いて)!」と別の誰かが口を挟む。1人の話が終わってから話そうなどと考えていたら、ずっと会話に加われないままになってしまう。大縄跳びに入るタイミングを計っていたら、我先にと入っていく人たちで縄の端から端までが埋まってしまった状態。そして、そこに自分が入りたくても、誰も抜けようとしないのだ。
そんな彼らの話好きは、アルコールが入ると更に熱を帯びる。まさにヒートアップ、早口合戦が繰り広げられる。大縄の回転速度が上がってもなお、誰もへばったりしない。
私、いつ入れますか?

そんな私が会話に入る手段として選んだ方法が、おつまみ作戦。早い話、モノで釣ろうというわけだ。みんなが会話に夢中になっている横で、持参したおつまみを器に盛り、聞き役の1人に
「おひとついかがですか?」
と勧める。私が提供したのは日本から持参したものだったので、勧められた人は大抵の場合、物珍しそうに
「これは何?」
と聞いてくる。輪の中に入れなくても、勧めた人との会話が発展したり、
「シホが持ってきたこれ、美味しいわよ!」
などと宣伝してもらえた日には、全体の輪に加わることもできた。
おかきは受けが良かった。小粒でポンポン口に運べるし、チーズやアーモンドをトッピングしたものもあったので、みんな抵抗感なく手を伸ばしていた。
金平糖は、形状や色合いが興味を引いたようだった。ただ、アルコールと一緒に食する人は少なく、
「コーヒーに添えたい」
とか
「疲れたときポケットに忍ばせておきたいわね」
という意見を頂いた。ある人などは、
「入浴剤かと思った」
と豪快に笑い飛ばしていた。
さすがに私も、アペロの場で入浴剤を勧めたりしませんけど?
予想以上に話題になったのが、白玉。これはホームステイ先でキッチンを使わせてもらい、事前に作っておいた。みたらし・ごま・きな粉・抹茶、それぞれ気になるものを白玉につけて食べてもらったところ、好評だったのだ。
「バターをつけてもいいわね」
という声も聞かれたが、その後試していない。
白玉はデザートとしても提供できるので、フランス人に勧める上で結構使い勝手が良い材料なのではないかと思っている。
余談だが、アペロではバターを添えたおつまみが多数あった。生のラディッシュに乗せたり、ハムで巻いたり、一口サイズのクルトンにハーブ入りバターを塗ったものなどがあり、バター食べてます、というほどたっぷりと添えられていた。苦手な人は、脂っぽく感じるかも。白玉にバターを、と言うくらいだから、フランス人にとっては一般的な食べ方(量)なのかも知れない。
そして残念ながら、あまり興味を持たれなかったおつまみについて。母が送ってきてくれたかつおチーズを、ホームステイ先のRDP家のアペロで勧めてみた。
「これは何?」
という問いかけはいつものことながら、前のめりではなく明らかに引き気味である。更に、魚とチーズの組み合わせと分かるや、子どもたちは露骨に顔をしかめた。招待されたゲストの大人たちはさすがに素振りこそ見せなかったものの、誰も手を伸ばそうとはしなかった。
そんななか、RDPムッシューが一つ手に取り、
「うん、これはイケるね!美味しいよ、シホ!」
と場を取り持ってくれただけでなく、娘に
「美味しいから食べてみたら?」
と勧めてくれた(娘は口にしなかったけど)。
ビミョ~な空気が流れ、会話も弾んでいない。
「あまり馴染みがないものでしたよね。済みません」
私がムッシューに謝ると、ムッシューは目を丸くして、
「何を言っているの、シホ!僕はもう2つ目だよ!」
と個包装の空き袋を私に見せた。
ゴメンね、ムッシュー。私に気を遣っていたんだよね。口がモゾモゾしてた。飲み込むの、苦労していたんじゃないだろうか……。

成功も失敗もしたおつまみ作戦。モノで釣らなくても、フランス人との会話に加われるようになれたら良いのだが、フランスともフランス語ともしばらく距離が空いてしまった今、これからもタイミングが掴めない状況が続くことだろう。

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