猫話~蚤の市での出逢い~

フランスではさまざまな市(マルシェ)が立つ。食品から生活雑貨に植物や動物まで、興味がなくてもふらっと立ち寄ってみたら、今まで気づかなかった発見があったりする。

パリのシテ島付近に立ち寄った際、鳥の鳴き声が聞こえてきた。1・2羽のさえずりではなく、群れているような声だったため、渡り鳥か何かが飛来したのだろうか?と思っていたら、小鳥市だった。フランスではペットとして、犬や猫に次いで人気があるらしい。小鳥に興味があるわけではなかったし、短期留学生だったから飼うつもりも毛頭なかった。ただ市場というものには、つい足が向かってしまうような、じっとしていられない気持ちにさせられる。ちょこっと覘いてみようか、そう思って区画内に歩を進めた。普段じっくり見たことがなかったせいもあるが、鳥グッズってこんなにたくさんあるんだ!と、関連商品の多さに驚く。鳥かごも餌もわんさと置かれている。拘る人は追及するんだろうな、と眺めていたら、インテリアにしても良さそうな丸い編みかごが売られていた。巣の代わりにでもするのかな?と思っていたら、小鳥市の隣でガーデングッズを扱うお店のものだった。
私は見かけなかったが、ウサギやハムスター、金魚などもこの市で売られているのだそう。しかしながらフランスでは動物愛護の観点から、ペットショップでの犬・猫の販売禁止に加え、水族館やサーカスでの動物ショーを禁止する法案が可決された。これにより、1800年代から続いていた小鳥市も今後開かれなくなるらしい。
ウサギ・犬・猫と過ごしてきた私にとって信じられない話だったのは、ヴァカンスシーズンになるとペットを捨てるフランス人が一定数いるということ。私の知り合いにはいなかったけど、無責任な飼い主が多いということも、法案が通った一因として挙げられている。映画『猫が行方不明』では、主人公が苦労しつつもヴァカンス前に飼い猫を預けているし、いなくなった猫をみんなで探すなどしているが、飼育放棄されるペットの多さ(毎年10万匹という報告も!)は深刻だ。

こんな風に書き始め、タイトルに鑑みると、蚤の市で子猫でも売られていたんじゃないか、映画のように猫を巡ってフランス人とのドタバタストーリーが展開されたんじゃないかと思われたかも知れない。違います。紛らわしくて済みません。
パリ・ヴァンヴの蚤の市で出逢ったそのお店は、猫を看板に掲げてはいたものの、扱っていたのはピンバッジ。よくこんなに猫だけのものを集めましたね!と感嘆するほどの数が、雑然とテーブルに積まれていた。多少汚れているものもあったが、大抵のものが綺麗だった。金属部分が錆びていたり、針が曲がっているものも少なかった。そして何より、デザインが素敵!どのニャンコも個性的で、私は一つ一つを手に取っては、相好を崩していた。店のご主人は他の店のご主人たちとカードゲームをしていて、私に構う様子はない。信用なのか無関心なのか、長時間居座っても(露店なので姿勢としてはずっと立位)、私を訝しく思ったりはしていないようだった。
あまりにも熱心に眺めていたから、他の観光客の興味を引いたのだろう。私の背後から様子を窺う人がちらほらいたが、「なんだ、バッジか」という態度ですぐに立ち去ったり、「見て、可愛いわ」などと呟き一瞬手に取るが、買わずに別の店へと移って行った。そののち、20代くらいの日本人男性3人組が通りかかった。
「この店、なんだろ?」
「ただのピンバッジじゃん」
「すっげえ、全部猫!」
「じゃあ、ネコマニか!ネコマニ~!!」
たぶん、彼らは私が日本人だと予想してそう言っているようだった。やたらとテンション高かったし。
(しらんぷり)
相槌でも打った方が良い?とかすかに思ったが、ネコマニって言い方がちょっと……。私は「日本語分かりません」という体で店のご主人並みに無関心を装ったので、彼らは冷やかしの言葉だけを残し、また人混みの中へと紛れて行った。
あれもいいな、こっちも捨て難い!と散々悩んだ挙句、私は11個購入することにした。10個だと割引になるので、10個+1個の値段になるかしら?と思っていたら、ご主人がにこりともせずに
「10個の値段でいいよ」
と言ってくれた。ラッキー!(ちょっと期待していた)
愛想はないけど、あれだけの数を状態良く揃えているのだ。きっと猫に愛情がある人に違いない。

このバッジは広告用に作られたようで、キャットフードや獣医、飼育ペンションなど直接猫に関するものや、ブーツやナイトクラブなどのお店を宣伝するものだった。映画で使用された楽曲の一部がデザインされているものもあったし、裏面に住所や電話番号が彫られたものもあった。宣伝色が薄いので、帽子や鞄に付けてもおかしくないように思う(が、一度も付けて出掛けたことはなく、室内装飾となっている)。フランス人はこれらをどこかに付けて出掛けたりしたのだろうか?付けていたとしたら、どんな人だったのだろう?やはり、猫好きだったのかしら?
眺めているだけで、想像を掻き立てられる。

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