5月はお好きなように

新緑が美しい季節。色とりどりの花が咲き乱れる光景も素敵だが、私は葉が緑に染まるこの時期の景趣に惹かれる。
フランスのことわざに、『Mars venteux et avril pluvieux font mai gai et gracieux』、直訳すると『風の強い3月と雨の多い4月が陽気で優美な5月をもたらす』というものがある。英語にも同様のことわざがあり、”苦あれば楽あり”と訳されることが多いようだ。もう1つ、フランスの5月に関することわざで、『En mai,fais ce qu’il te plait(5月は好きなようにすればいい)』というものがある。こちらは4月の『En avril,ne te decouvre pas d’un fil(4月は一糸もあらわにするな:暖かくなったからってすぐ薄着になるなという意味合い)』と連句?になっており、このことから、私は単純に「5月は何をするにもいい季節!」と解釈している。

5月1日、フランスではスズランを贈る風習があると1年前も書き、私はこのならわしが気に入っている。日本だとこの時期はカーネーションが主流になるから、スズランの出番が少ない(見かけないことの方が多い)のはちょっと寂しかったりする。宿雪色の可憐な花冠をふわりと包むようにまとう翠玉色の葉。「ああ、5月になったのだな」と実感するひとときだった。
この時期の日本の風物詩といえば、鯉のぼりだろうか。かつては近所のご家庭でも泳がせているところを見かけたものだが、最近私の近隣で揚げているお宅は見られない。家が密集している東京だと、ご近所に配慮し、屋内に手持ちできるくらいの小さなものを飾っているのかも知れない。何匹も連なるものとなると、神社やお寺・公共の施設や団体で実施するものに限られてしまうから、私にとっては目にするものから見に行くものになりつつある。例年、テレビなどで各地の鯉のぼりの様子を中継するから、季節の移ろいは感じさせてもらっている。

連休中、毎月お参りしている神社に足を運んだところ、鯉のぼりが揚がっていた。ヒノキ作りで、まっすぐに伸びる竿と角のような支柱部分が立派。広い境内でイチョウの樹々に囲まれ、空を見上げると五月晴れ、深緑に真鯉や緋鯉といった色が風の流れに揺らぐ様子を想像すると、こちらまで悠々とした気分になる。だが私が訪れたときは曇天で風もほとんど吹かなかったため、薄暗い空気の中、鯉の家族は紐で結わえられた子持ちししゃものようにダランと下がっていた。まあ、こんな日もあるさ。
参拝ののち、恒例にしているおみくじを引く。この神社のおみくじにはお守りがついていて、種類は全部で23体あるのだそうだ。和歌による運勢の良し悪しよりも、どちらかと言えばどんなお守りが出るかを毎回楽しみにしてしまっている。私はあと1体引いたことがないものがあったため、今日はそのお守りを引くぞ!と意気込んで、ポリ手袋をした右手を箱の中に突っ込んだ。開いてみると、やりました!とうとう引いたことがなかった1体をゲット!!いや~、5月っていい季節だなぁ。運勢は中吉だったけど、特段悪いことは書かれていなかった(はず)。早々におみくじ掛けに結んでしまったため(そしていいことしか覚えていないため)、内容はどんなだったかしら?最後の1体を引いたことで万事OKという気持ち。今月もよろしくお願いします、と手を合わせ、帰宅したのだった。


で、自宅でお守りの種類を数えてみたところ、22だった。あれ?あと1体、引いたことのないものがある??確認したところ、完全制覇にはまだ1体足りなかったようだ。まあ、全種類引いたとしても、これからも毎月お参りするつもりだし。今度こそ、最後の1体を引き当てに行くぞ~(もちろん、参拝メインですが)!
そして、重複しているお守りの数と併せて数えてみたら、49体あった。私は3年くらいだと思っていたけれど、どうやら月例参拝は5年目に突入したようだ。イチョウや楓、竹などに覆われた神社は、いつ訪れても心が解きほぐされる。一角にある和敬清寂の碑(こちらでは茶道教室も開かれているらしい)に寄り添う樹々の葉、一層美しかったなぁ。

帰りがけに抹茶のお菓子を購入したため、お茶でも点てるか、と思い、家で準備をする。といっても、お湯を沸かし、注ぎ口の細いケトルに移してから粉に注ぎ、茶筅でシャカシャカするだけ。お茶の賞味期限が近かったので、やや焦る。開封してから時間が経っているけど、風味とか大丈夫かしら?
(うっ、何だか色が……)
やっぱり鮮度を落としている。前は柳色とか利休色だったような気がするけど、今は土筆色に近い気がする。それにもっとふんわり点てたかった。こした方が良かったかなぁ。早くお菓子を食べたいものだから、手間を省いてダマのまま点ててしまった。
お抹茶の保存方法や点て方を反省しつつ、まあ5月だから好きにしてもいいかな、と気を取り直す(ことわざ的にはそういうことじゃないと思うけど)。せっかくいい季節になったのだ。自分なりに謳歌しようじゃないか!

近年、梅雨入りが早く長くなり、新緑の季節に樹木浴(山に行くわけではないのでそう呼んでいる)できる期間が短く、意気消沈してしまう。だからこそ、この時期に晴れ間が覘いたときはより愉しもうと思える。目下、身近なところで緑に触れられる場所リストを増やしているところだ。大抵の場合、ついでで見つけたお菓子やさんやパンやさんのリストの方が増えているのだが……。
5月はお好きなように!

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