装いに対する意識の違い

夏より冬の装いが好きだ。包まれている感じがいい。職場には無理だが、家ではオーバーサイズのトップスでぬくぬくしている。どう見ても着られている風になるのは、低身長だし仕方がないか。

フランスでは女性モノでも大きいサイズがたくさんあったが、身に着けることはなかった。フランス人たちは自分にぴったりの丈というものを理解していて、大抵の人はあつらえたかのように身体に合った服を着こなしていた。
ミレニアムに母とパリの「キャロル」というブティックで買い物をした際、接客してくれた女性のプロ意識に驚いたものだ。私が選んだ服を試着室に持っていこうとした際、その女性は
「あなたにはこちらの方がいいわよ」
と別のサイズを勧めてきた。こっちのサイズを着た状態を見てもいないのに?と半信半疑で両方着てみたのだが、確かに彼女の選んだ方がしっくりきた。人を眺めただけでサイズが分かるんだ!と心底感嘆した。金髪ではっきりした目鼻立ち、170cmくらいの長身に高いヒール靴、胸元の切れ込みが長く、緩いドレープのリトルブラックドレスを着ていた彼女。いかにもデキる女性といった雰囲気なのに、気取ったところがなくとっても気さくで陽気な人だった。ミレニアム明けということもあり、シャンパンとマカロンを来店客に勧めていて、私たち母子にもうやうやしくグラスを差し出してくれた。服に合うバッグを私に提案してくれたときも、
「こんな風にするといいわよ!」
と、バッグを小脇に抱え、ランウェイでのモデルさながらに店の中を颯爽と歩いてみせてくれた。接客されるのが苦手で、いつもはそそくさと買い物を済ませてしまうのだが、このときの彼女の対応はいつ思い出しても心地よい。

フランス人は自分に合うものを幼い頃から選んでいる。小学生のベリンは既にピアスをしていた(耳飾りをしないのは裸でいるのと同じ、という往年の大女優さんの言葉があったような?)し、ホームステイ先でも、バスルームには子どもたちそれぞれの香水瓶が置かれていた。知り合った人の中には体型を気にする人もいたが、あまりネガティブには捉えず、どうやったらバランス良く見えるかを追及していた。鎖骨の見え具合とか、ボトムスからどの程度足がのぞくかで「エレガント」「野暮ったい」とか、雰囲気が重い・軽やかとか。私がローヒールのブーツに踵スレスレのジーンズ、お尻が隠れる長さのタートルネックセーターを着ていたとき、「小柄なのに重たい」と言われたことがあった(最初、体重のことを言われたのかと思い言葉を失った)。インターン期間中で手持ち服が少ないとはいえ、もう少し自分に合った装いについて考えた方がいいかな、と、その後は周囲のフランス人たちを参考にしたものだった。
彼らは冬場の装いでも、暖かさよりバランスを重視していたように思う。ダウンは不人気。ステイ先や学校で、「雪だるまみたい」とか「太って見える」と言っているのを聞いたっけ。彼らは着込んでいないように見えるのに、うまく重ね着している。私はいくら重ねても寒い(そんなだから当然、着ぶくれする)。重ねたうえに厚手のセーターとウールコートを羽織っていたものだから、ダウンでなくてもモコモコしていた。確かに、ちっちゃいくせに重い~。肩が凝る~!

そんなフランス人の冬場の装いで、私は不思議に感じることが1つあった。生徒も教員も、着回しをしない人が多かったのだ。月曜日に着たものを金曜日まで通して着ている。つまり、1週間ずっと同じものを着ている(下着は代えているのだろうけれど)。
着続けることに躊躇したり、別のものを着ようとか思わないのだろうか?
ステイ先のマダムに疑問をぶつけてみたところ、
「夏と違って汗もかかないし、汚れていないから」
という返答だった。なんて合理的!毎日の服選びって迷ったり面倒だったりするときもある。でも日本だと、制服でもない限り、同じ服を続けて着ていたら白い目で見られたりする。汚れていないんだから着続けてもおかしくないでしょ?汚れたら洗濯すればいいじゃない?っていう感覚が新鮮。それに、汚さないように着る・いつでも着られるように保管するという習慣が身についているのだろう。母も、生地は一度水を通すと傷む一方だ、と常々言っている。かつて私は、結婚式だったか何かでおろしたてのワンピースに脂染みをつけたことがある。クリーニングに出そうとする私に、
「こんなに早くクリーニングに出す状態にするなんて、どんなにいい生地だったとしてもすぐダメになっちゃうわよ」
と母は呆れて言い放った。
膝にナプキンかけてたけど、ちょっと下の方にずれちゃってたんだもん。覆われていなかった部分にたまたま汚れがついちゃったんだもん(いい大人はそもそもそんな風に汚したりしなさそうですけどね)。
まずは汚さないって、装い以前の問題だ、と昔を思い返して一人苦笑したのだった。

そしてその冬、ステイ先から香水を頂いた。もらったけど使わないからどうぞ、とマダムがくださったのだが、
「シホも香水くらいつけた方がいいわよ」
という勧め方や、
「シホ、私もちょっとつけてみてもいい?(シュシュッと自分につけて)わ~、とってもいい匂い!きっとシホに合うわ!」
と私の鼻先で香り漂う手首をひらひらさせる高校生の娘に、心がざわつく。
香水が広まった歴史。汚れていなくても、1週間同じものを着ていたら臭いを気にする人もいるでしょう。でも私は毎日着替えているんですけど……?
(私ってクサい?)
この疑問を聞く勇気はなかったので、フランス流に香水で装うことを受け入れることにしたのである。

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