スイーツ・ノスタルジー6~モロゾフの東京午後三時~

クッキーで挟んだお菓子は?と聞かれたら、恐らくひと昔前の私は六花亭のマルセイバターサンドや小川軒のレイズン・ウイッチを想像したことだろう。今や、サンド系スイーツは多くのパティスリーで定番の1つとなっている。最近はキャラメルやバターサンドが人気なのだと思うが、エシレやベイユヴェールなどフランスのものから、テオブロマやプレス、更にはコンビニでも見かけるようになった。

多様なサンド系スイーツ情報を見聞きするようになってくると、私はどうしてもあるお菓子を思い返さずにはいられなかった。それが、モロゾフの『東京午後三時』だ。これが正式名称なのかは分からないが、確か東京駅構内限定で販売されており、注文するとき「東京午後三時ください」で通じていた。
直径7cmくらいの円形で、ドライフルーツなどが入ったケーキをホワイトチョコでコーティングし、両面を薄焼きのサクっとしたサブレで挟んだお菓子。この取り合わせが絶妙にマッチしていて、私はお気に入りだった。中のケーキ生地はしっとりしていて洋酒も入っていたように思う(あるいはラム漬けレーズンが含まれていてアルコールを感じたのかも)。ダークチョコが好きな私だが、このお菓子にはビターでもミルクでもなく、ホワイトが最適だと思えた。サブレは鎌倉・豊島屋の鳩サブレのようなタイプではなく、アテスウェイのガレット・ブルトンヌタイプ。ケーキ生地とはホワイトチョコで遮断されているから、サブレがしなっとせず、手土産などで持ち歩いたあと(時期や保存状態によっては数日後)でも歯触りの良さを保っていた。この3構造(しっとりしたケーキ・パキッとしたホワイトチョコ・サックリしたサブレ)が口の中でホロッと崩れると、バターやフルーツ・チョコレートの香りが鼻腔を心地よく満たしてくれる。1個で満足する食べ応えなのだが、しつこさがなくまた食べたいと思わせる味だったので、私は何回かリピートしていた。1つ1つは個包装で、銀の包み(マルセイバターサンドと同じようなもの)に、駅だか街だか、何かの建物が描かれていたように覚えている(旧東京駅だったような?)。バラ売りはされていなかった。私は3個入りを購入していたが、ほかの個数が用意されていたかどうか定かではない。
東京駅構内限定ということで、どこでも手に入るわけではなかったから、できれば何かの用事ついでに立ち寄れたらベストだった。でも、気まぐれな食欲のタイミングで用事があるとは限らない。私は東京午後三時のためだけに、交通費を使って東京駅まで出向いていた。これに限らず、スイーツへの欲求だけで公共交通機関を乗り継ぎ、目的のものを購入したのち、何もせずまた同じ経路を引き返す『罪悪感ルート』が、私の人生でどれだけあったことか。道すがら、もっと別のことに時間やお金を使えよ!とか、これを一人で食べたらどうなっちゃうの?!とか、罪悪感を刺激することを考えてしまうのだ。いやいや、物を書くには体験や経験が必須でしょう!と左肩の自分が言い訳すると、その道のライターはもっと貪欲に時間もお金も使って極めているから、あなたは中途半端でしかないよ、と右肩の自分がツッコミを入れる。で、自己嫌悪しながらも家に着き、スイーツを口にしたときのあの高揚感。あ~、このためだったら罪悪感伴ってもやめられないわ~、と毎回リセットされてしまう。中途半端であってもなくても、スイーツ好きには共感してもらえるはずだと私は確信している(と、左肩の自分がそう言っております)。いいの、いいのよ~、またどこかで節制すれば!(右肩の自分のツッコミは言わずもがな……)
東京午後三時はそういった罪悪感を伴っても足を向けさせるスイーツだったのだが、いつの間にか取り扱いがなくなっていた。商品がなくなったことを知ったのが、罪悪感ルートでお店へ出向いたときだったため、何と私は罪悪感のみならず絶望感まで伴って帰宅することになってしまった。なぜ?いつの間に??全然知らなかった……。期間限定とは聞いていなかったし、何年かは販売していたから、結構長いスパンだったはず。人気が出なかったのだとしたら、もっと早くに販売終了していただろうから、コストの問題とか?いずれにしても、東京午後三時は私の前から忽然と姿を消してしまった。

コロナ禍において、罪悪感ルートでの外出だけでなく近所のパティスリーにも足を向けることがめっきり減ってしまった。それでも、サンド系スイーツ情報が入ってくるのだから、いまどきのお菓子であることは間違いないのだろう。だとしたら、東京午後三時が復活する日もそう遠くないのかも知れない。もしそうなった際は、東京駅構内以外のモロゾフ店舗でも扱っていただけると、私の罪悪感もほんのちょっとは軽減されるかも?(と、また左肩の自分が……)

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