ある日、ミュゼ巡り~パン美術館~

インターン期間中、旅先で知り合ったパティシエのユキさんと、数日間一緒に南仏の小さな村々を巡った(このサイト内、『ある日、人の振りと我が振り』で紹介しています)。彼女はスイーツ修行の傍ら、フランス各地方の郷土菓子を探究していて、次の休みには南仏へ足を運ぶとメールを寄こしてくれたのだ。私はホームステイから独り暮らしへ切り替えていたので、それならうちへ来れば?と誘ってみた。

私が滞在していた街は、近隣の小さな村を行き交うバスの路線がいくつかあった。私のように、国際運転免許証を携帯していても運転に不慣れで、レンタカーを借りるという手段を取れない人間にとって、車でしか行けない観光地への足があるのは大変ありがたい。とはいえ、ユキさんと最初に訪れた村は、目的地までバス停から徒歩1時間弱掛かる距離だった。左右に広がるひまわりやラヴェンダー、ワイン用のブドウ畑などにちょいちょい立ち止まったり、自生していたさくらんぼをつまんだりしながら、私たちは炎天下の補装されていない道をひたすら歩き、お目当ての村に辿り着いた。

この村には有名な観光スポットはなかったが、パンの美術館があった。こぢんまりとした2階建ての建物の中に、脱穀機や粉挽き機、調理器具などが展示されている。焼き型の中にはマドレーヌやクグロフのものもあった。かまどはかつて使用されていたようなので、ここはその昔パン屋さんだったのだろう。

左:美術館の案内ポスターが販売されていた。4€って高いのでは?写真NGではなかったから、私は撮影したもので充分。本当に欲しい人だけ買ってくれればOKというスタンスなのだろう。
中央:かまどとパン職人の人形。
右:粉挽き機。


左:麺棒やスケッパー、はかり、パン型の展示。
中央:真ん中に丸い出っ張りがあるのがクロンヌ(フランス語で王冠という意味)の型、平らな丸型はガレットやミッシュ(複数の粉を混ぜて焼くパン)に使われていたらしい。
右:クグロフの型。螺旋の金属器具は泡立て器だと思われる。


左:焼き菓子の型。背後にオランダの木靴のような型があるけれど、何に使われるのだろう?
中央:貝型のほか、葉っぱ型もある。
右:持ち手がついた器具はワッフルの型だと思われる。やかんやココア缶などもアンティークなのに、古さを感じない。


脱穀機の展示室には、死神が持っているものとして描かれるような大きな鎌があった。頭上の壁に掲げられていたのだけれど、地震大国の日本人からすると、非常に危なっかしく感じる。何かの拍子に落ちてきたりしたら、簡単に首が飛ぶよね……。


展示されている焼き型で作られたパンの模型が、実際のパン屋さんの陳列棚のように並べられていて、昔から色々な種類のパンが食されていたのだなぁと感心した。

左:型の説明。
中央:バゲットなど棒状パンの型。
右:思わず手に取ってみたくなるくらい精巧に作られたパンの模型。実店舗さながらに陳列されているから、美術館だと知らなければ、パン屋さんだと思ってしまうかも。


私は今まで、ポワラーヌに代表されるような大型の田舎パンをまるっと1個購入している人と出くわしたことがないのだけれど、現代において、レストランなどの飲食関係以外の人が買うことはあるのだろうか?日本だと最初からハーフとか1/4とかに切られたものが置いてあったりするけれど、フランスでは注文を受けてからカットしているように思う。ということは、1個の方が需要があるということ?単に見栄えとか配置の関係?その場で切り分けるのは面倒なのでは(購入の列が長くなるのはそのせい)?
ちなみに、バゲットもカット注文できるということを、私はパリ留学中に知った。それまでの私は、できたてのおいしいうちにお腹が許す限り食べ、硬くなってしまってからはボウル一杯のカフェオレに浸したり、フレンチトーストにしたりして消費していた。カットで売ってもらえると理解してからは、ピッピッと飛び散るバゲットの皮に顔をゆがめながら切り分ける店員さんには申し訳ないと思いつつ、”une demi-baguette(バゲット半分)”の注文を自分の習慣に定着させたのだった。
※下の写真は、パリ留学中にバゲットを半分にしてもらって購入していたパン屋さん。外まで人が並んでいる。このお店が特に有名というわけではなく、どこのパン屋さんもたいてい列をなしていたので、注文後にカットしたりしているからでは?と想像している。

次の村へ向かうバス便のこともあり、そのときの私たちは、美術館だけでなく村中を駆け足で観光した。昔ながらの石造りの建物や細い路地はひっそりとしていて、石壁に添わせた植物や道脇に植えられた花々は整然と村の雰囲気に溶け込んで美しく、ゆったりとした気持ちで散策したかった。それなのに私たちは、石畳の落葉を巻き上げるくらいの勢いで、せわしなく歩き回った。
やっぱり、車は運転できた方がいいよなぁ。かと言って、ペーパードライバーとなって30年ほど、今の私にとっては車が死神の鎌と同じく命を奪うものになってしまいそうなので、やはりバスなどを利用することになりそうだ。旅には時間的な余裕を持って臨むことにしよう!

※下の写真は、マルティヌの別荘に招待されたとき、彼女が途中で立ち寄ったパン屋さんのかまど。パン美術館に展示されていたものよりは新しいのだろうけれど、こちらも年代モノ。

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