スイーツ・ノスタルジー2~ブルボンのほおずきくん~
待ちに待った、年に数回の遠足。私の場合、たいていはチョコレート菓子を選んでいたが、この箱菓子が出回っていた頃は迷わずこれに決めていた。それがブルボンの「ほおずきくん」だ。
おぼろげな思い出の中にあるそれは、確か歯触りが柔らかくサクッとしたラングドシャタイプのクッキー生地を薄く球状にし、その中にクリームを詰めたものだったと思う。パッケージにはイタリアで人形劇のキャラクターになっているネズミの「トッポ・ジージョ」が描かれていたが、お菓子のネーミングから、私はこのネズミが「ほおずき」という名前なのだと思っていた。
『独り言』でショコラホリックの馴れ初めを書いてきたが、箱菓子を買ってもらえる機会も、この年数回の遠足時に限られた。母は私がチョコレートかほおずきくんしか買わないことを分かっていたものの、お菓子交換の儀式によって私がそれらをあまり食べていないことを知っていた。そのため、「本当にそれでいいの?もっとたくさん買えるほうがいいんじゃないの?」と毎回のように聞いてきたが、私は自分の決めた菓子を買ってもらい、帰宅時には飴やらラムネやらを持ち帰っていた。
私にとっては箱菓子ベストワンのほおずきくんだったが、いつの間にかスーパーの棚から消えていた。出回らなくなってからもしばらくはほおずきくんを探していたが、そのうち、私の遠足のお菓子選びはいつものようにチョコレート一色になっていった。
それが数年後、思いもかけないところで、私はほおずきくんと再会する。
ほおずきくんを買っていたのは小学校低学年の頃だったと思うのだが、その時私は高学年になっていた。その日は週末で、同級生とアスレチック場へ自転車で遊びに行く途中だったのだが、飲み物を買うため通りすがりのスーパーに立ち寄った。普段は行きつけない場所の店舗とあって、何がどこにあるのか分からなかった私たちは、物珍しさとも相まって店の中をウロウロしていた。私は買わないまでも興味本位からチョコレートの棚をチェックしていたのだが、ふと、身長より高い位置にあった箱菓子に目をやった。すると、耳の大きなネズミのパッケージがちらりと目の端に映った。
(あれっ?)
私はドキドキした。
(ひょっとして……?!)
背伸びして箱に手を伸ばし、人差し指を何とかひっかけて手前に引く。棚から落ちる形で私の胸元に飛び込んできたその箱を見て、私は興奮した。
(やった!本当にほおずきくんだ!!!)
世の中から消えたと思っていたほおずきくんと、こんなところで出会えるなんて!
なくなったんじゃなかったんだ、という喜びと、どうして近所では見かけないんだろう?という疑問を上回る高揚感から、箱にハグか頬ずりしたい衝動に駆られた。でも、そんなことしたら変な目で見られるという客観的な判断も一応はできる年齢になっていたので、箱をぎゅっと握りしめることで気持ちを抑えた。
再度見上げてみると、箱はあと1つあった。当時、私は毎月のお小遣いで文房具など身の回りで必要となるものを遣り繰りしていたが、お菓子の買い食いは禁止されていた。言いつけに背く罪悪感と、今後必要経費が生じたときに足りるだろうか?という不安を感じながらも、私は2つの箱を大事に抱えレジに並び、それらをアスレチックのお供に加えた。
そうして、1箱はみんなで食べ、あと1箱は自宅でゆっくり食べることになったのだが、母もほおずきくんがまだ出回っていたことに驚き、買い食いについては大目に見てもらえることになった。そして、私にとって人生初のオトナ買い(2箱だけど……)経験となり、遠足にはない満足感を得られた出来事になった。
その後、ほおずきくんを買うためだけに親に隠れてこっそりそのスーパーへ出向いたのだが、2度目の再会を果たすことはできなかった。私は未練がましくお菓子棚の周囲をウロウロし、どこか別の場所に置かれているんじゃないかと探してみたが、影も形もなかった。それでも諦めの悪い私は、別の日に改めて訪れてみたのだが、結局、ほおずきくんとはそれっきり出会えなかった。
たった1度の再会だったが、数十年経った今でも、見つけた時の感動を思い出す。幼い頃の思い出だからか、もう食べられないからか、ずっと記憶に残る「ほおずきくん」。
またどこかで会えたらいいな。ブルボンさん、お願いします(笑)。