フランスで見つけた素敵なもの~子ども用品~
親にとって、幼かった我が子の成長を振り返れるような品は残しておきたいものだろうか。私はかつて母から、綿が詰められた掌サイズの木箱の中にちょこんと収まっているへその緒を見せられた。とても大事に保管されていたことがわかる状態だったけれど、赤黒く縮れたゴムのような物体は、私の第一印象にグロテスクなものとして残った。
そんな印象だったから、自宅がもらい火で全焼し、私がこの世に誕生するまで母と繋がっていた証が失われてしまったときも、さほど残念に思わなかった。
フランスでは、子どもの乳歯を記念に取っておく習慣があるようだ。私はインターン期間中、ホームステイしていたRDP家のマダムから、木のケースに入った子どもたちの乳歯を見せてもらったことがある。
「日本だと、下の乳歯が抜けた場合は屋根の上へ、上の乳歯が抜けた場合は地面へ投げ、まっすぐな歯が生えるようにお願いするという風習があり、私もそうしてきたので、1本も取ってありません」
とマダムに説明したところ、彼女は隠そうともせず眉をひそめ、大きく首を振って‟信じられない”という素振りをした。
マダムによると、フランスでは抜けた乳歯を枕の下に入れて寝ると、夜の間にねずみがコインと交換してくれると言われているため、子どもたちは歯が抜けると喜ぶのだとか。もちろん、コインを用意するのは親なので、乳歯が抜けたときにコインの持ち合わせがなかったらどうするのだろう?などと私は考えてしまった。どうやら、子どもたちは家庭でも学校でも「もうすぐ抜けそう」と話題にするらしく、大抵の場合、親は直接的なり間接的なり生え変わりについての情報を事前に把握し、コインを準備できるそうだ。私の場合、学校はおろか、家でもそういった話をしなかった。それは一度、「歯がグラグラして抜けそう」と家族に伝えた日の夜、私の寝ている間に、兄がその歯を抜いたことがあったからだ。それ以来、勝手に口の中をいじられないよう、抜けた後で家族に伝えるようにしていた。だからフランスのような風習があったとしたら、うちの親はコインを用意できなかったかも知れないな、などとつい想像してしまったのだ。
それにしても、子どもの歯を取っておきたい親と、コインが欲しい子ども、うまい仕組みができているものだ。抜けた乳歯を親が受け取ろうとするとき、この風習がなかったら、子どもが捨ててしまったりどこかへ落としたりするかも知れない。コインがもらえるとなれば、子どもはなくさないように注意を払うだろうし、抜けた日の夜に枕の下に入れる、ということが分かっている親も、探す手間が省けるというわけだ。
へその緒や乳歯だけでなく、着用品を取っておく親もいる。子どもは成長が著しい。洋服はすぐサイズが小さくなってしまうし、成長を見越して少しばかり大きめの靴を履かせていたら、子どもを抱っこして下ろそうとしたとき、靴がなくなっていたりすることもある。わずかな時間しか使用できないのだからと、小さい時分は着用品にそんなにお金をかけないというご家庭が、日本でもフランスでも一定数見られる。まだ新品同様なのに小さくなってしまった場合、兄弟姉妹がいれば継続して着用できるけれど、そうでない場合は、誰かに譲ったりリユースの手段を考えたりすることもあるだろう。子どもがお気に入りだったものは、思い出の品として取っておくかも知れない。ベビーシューズを取っておいた場合などは、あの子はこんなに小さかったのか、すっかり大きくなって、と感慨深くなったりすることだろう。
日本では子ども用品を見に行くことがほとんどなかったけれど、フランスではホームステイ先の家族やインターンの教員仲間と見て回ったりしたことがある。モノプリのような小売りチェーン店の子ども服でも結構しっかりした作りと可愛らしいデザイン・カラーが揃っていて、さすがファッション大国!と驚かされた。また、ノーブランドでもかなり上質な子ども服が作られていて、街中のショーウィンドウに飾られたアズリン色のダッフルコートには思わず惹きつけられた。インテリアとして飾ってあるだけでも素敵なのに、これを子どもが着ていたら可愛すぎるでしょう!と、しばらくの間見入っていた。
※下の写真がそのダッフルコート。熊さんの全身ボタンがインパクト大!トグルボタンだと普通だし、熊さんの顔だけのボタンだったら、印象が薄れていたかも知れない。
ダッフルコートは眺めるだけだったが、RDPマダムが見せてくれたような乳歯を入れるケースはかさばらないし、と私は1つ購入し、日本へ持ち帰った。確かクリスマスマーケットで手に入れたと記憶している。あれから子どもどころか結婚すらしていないので、当然乳歯を入れる予定はナシ。代わりに星砂と、2回目の留学で同じクラスになったギリシャ系アメリカ人女性のベットからもらったハート型の石を入れている。
そういえば、抜けた乳歯を投げるとき、私は
「私の歯~と、すずめの歯~と……」
というような歌?おまじない?を一緒にしていた。私はすずめだったけれど、他の動物で歌われている地方もあるらしい。動物の由来は不明だけれど(ネズミはいかにも歯が丈夫そうですが)、日本もフランスも、子どもの歯の成長を願った、親心からくる風習ってことなのかな?