ある日、フランスのトイレは落ち着かない

先週の土曜日、東京でちらほらと雪が舞った。今週末、底冷えのする私の部屋で起きがけに着いた足先の感覚では、氷の上に乗せたんじゃないかと思うほど床が冷たかった。雪になるかな、積もったりしたら月曜の出社時は難儀するかも。いそいそと靴下を履きながら、そんなことを考えていた。

何度かのフランス滞在で過ごした期間は、日照時間の短い季節が多かった。これまでのところ、旅行でも留学でもインターンでも、全て冬場(12月~2月)を含む時期に滞在してきた。渡航費などが一番抑えられるためにそういった選択をしてきたのだけれど、インターンで春や夏を過ごしたあとは、高くついても5月~8月頃がいいよなぁと欲が出てきた。21時くらいまで明るいからゆっくり出歩けるし(カフェやレストラン以外のお店はたいてい夕方には閉まってしまうけれど)、身軽な格好でいられるというのも有難い。
フランスで冬場に外出する際、私は日本のときより厳重に防寒対策をして出掛けていた。アウトドア要素が強く、太って見えるという理由でパリジェンヌたちから敬遠されるダウンに身を包んでいたのは、トイレに行きたくならずに済むようにするためだ。現地を知る人、いや、日本人であれば誰でも、探すのに苦労したり、清潔とはお世辞にも言い難い(失礼!)トイレを使いたくないという気持ちが働いてしまうことをご理解いただけるのではないかと思う。
私は近いほうではないので、幸い、外出中に困ったという経験は1度もない。ただ、トイレ(水回り全般と言っても過言ではないだろう)は日本に勝るものなしで、フランスに限らず、海外のお手洗い事情に閉口したという経験を持つ日本人旅行者の割合はほぼ100%ではないかと、根拠はないが確信している。
2000年以前にフランスに滞在したとき、パリ街中にある個室タイプの公衆トイレ・サニゼットは有料で、小銭がないと使用できなかった。私は一度だけ、何でも経験しておくか、という好奇心のみで使ってみたことがある。お金を入れて壁面のボタンを押すと扉が横にスライドして開き、中に入ると閉まった。このサニゼットは使用後に自動で室内を洗浄し、乾燥もしているそうだが、そのときは床が乾き切っていなかった。そのため、荷物を抱えて用を足さないといけなかった(もし乾いていたとしても、私は床に物を置きたくないタチなので、海外のトイレではいつも荷物を抱えている)し、洋服の裾にも気を遣わなくてはならなかった。備え付けの紙もない。予備知識として知っていたから用意はしていたけれど、持ち合わせていないとちょっと厄介だ。経験値だけのために利用してみたけれど、お金を払ってまでしなくても良かったかな、と後悔したのだった。
サニゼットは男女共有だけれど、1人用の個室タイプだから、もし自分の前後に男性が利用するとしても何とも思わない。しかし、複数の個室が横並びになっている公共施設のトイレでも男女共有が普通だったので、男性がいるときは正直戸惑った。あるとき、パリのギャラリー・ラファイエットの洗面所を利用した際、女性がズラズラと並んでいるなか、男性が1人だけ紛れていた。20代のイケメンでスタイリッシュな装い。ただでさえ男性と一緒に利用することには抵抗感があるのに、若いイケメンなんて尚更イヤ~!当の男性はといえば、多くの女性の中に1人でいるという状況なのに動じていない。女性陣も、日本みたいに流水音を流すシステムはもちろん無いにも関わらず、全く気に留めない様子で用を足していた。
デパートのみならず、インターン高校のトイレも男女共有だった。生徒用と教員用が分かれていて、生徒用は校庭に面した屋外にあり、使ったことがないのではっきりとしたことは言えないが、個室や男性用が複数あるのだと思われる。教員用は建物内の各階にそれぞれ1箇所、個室が1つ・男性用が1つずつ備わっていた。男女共有だから仕方のないことなのだが、この1箇所に個室と男性用があるために、私は何度も男性用を利用中の男性教員と遭遇し、その都度気まずい思いをする羽目になった。でもそう感じていたのは私だけのようで、男性教員の方は涼しい顔をして私に挨拶してきた。
恥じらいとは、慣れると赤の他人の前でも失われるものなのか?
また、フランスのトイレには、仕様に戸惑うものもある。例えば、便座のないもの。初めて出くわしたときは相当困惑すると思う。私はファーストコンタクトの際、これはビデなのかな、と思ったものの、じゃあ、トイレはどこ?ビデでどうやって用を足すの?と、立ち尽くしてしまった。しばし考えたのち、私はこれをトイレだと判断したものの、正しい利用方法が分からず、散々悩んだ挙句、空気椅子を選択した。先述の通り、私は床に物を置きたくないタチである。お腹に荷物を抱えた状態で、空気椅子。我ながら、格好悪すぎる……。
この便座のないトイレはフランスではさほど珍しくないようで、渡仏経験のある日本人でそれを見かけた・利用したという人が私の周囲にも何人かいた。でも彼らも使い方は分かっていなかったようで、私と同じように空気椅子を決行したと言っていた。この使い方は正しいのでしょうか?フランス人は絶対空気椅子とかしない気がする。
※片足を床・片足をトイレに乗せて使用するという話を聞いたことがあるが、もしそんな格好をしなくてはならないのであれば、女性から大いに不満が出ているのでは?ひと昔前ならともかく21世紀なのだから、便座は付けようよ……。

フランス以外のヨーロッパ圏のトイレ事情についても少し話したい。紙を流してはいけない国だと、トイレ横にあるごみ箱に使用したペーパーを捨てるようになっている。私が経験した国では、ドラム缶を半分にしたくらいの大きさのごみ箱に、使用済の紙や生理用品などを捨てるようになっていた。間が悪かったことに、私が利用したときこのごみ箱が溢れ返っていて、中身が床に散乱していた。衛生面は言うまでもなく、男女共有トイレだったので、デリカシー的にもどうなの?!と不快だった。
また別の国では、屋外に並列して設置されていた個室のドアを開けると水路状の管があり、それをまたぎしゃがんだ状態で用を足すトイレがあった。その管は他の個室と1本で繋がっていて、数分おきに一定方向から水を流して洗浄する仕組みらしく、何だか水が流れてきたなと思っていたら、横の個室の汚物が流れてきたのでぎょっとした。
他には、一人旅ならではのあるある事情について。バス旅などでサービスエリアを利用したとき、トイレに鍵がついていないことが多く、私は過去に2回ほど利用中に開けられそうになった。1回は女性で、もう1回は男性(こういった場所のトイレもたいてい男女共有だった)。防犯上の理由から鍵をつけていないと聞いたことがあるけれど、男女共有で鍵なしって、むしろ危ないのでは?中開きの扉なら、誰かが入ろうとしても全身を使えば押し止められるかも知れないし、床に物を置くことに抵抗がない人であれば、荷物でブロックしておけば何とかなるかも知れない。だが、外開きの扉だとドアノブを手で押さえるのが精一杯だと思われるから、勢いよく開けられたら防ぐのは難しそう。見られて恥ずかしい思いをするだけならまだマシで、身の危険が迫るかも知れない。そういった不安を少しでも解消したくて、私は自分で‟トイレ紐”なるものを考案し、海外の一人旅では持ち歩くようにしている。考案だなんて大袈裟に言ってしまったけれど、紐の両端を輪っかにして、片方は自分の腕に、もう片方はドアノブに引っ掛け、誰かが外に開こうとしたら中から引っ張れるようにしたというだけの代物だ。ノブに手が届く距離なら、こんなものは大して役には立たないかも知れないのだけれど、トイレがドアから遠かった場合は手が届かないこともあるし(経験上、そういったケースもあった)。輪っかはドアノブの大きさに合わせて調整できるよう、引き解け結びにしている。アウトドア好きの人だったらもっと効果のある結び方を知っていそうだけれど、私は詳しくないので、これでいいかなと思っている。紐に関しては、私は海外で安宿を利用したりするので、トイレ紐を考案する前は、持参していた洗濯紐を使っていた。そのときは両端のフックを使って輪っかにしたのだけれど、洗濯紐は硬いので、輪の大きさの調整が難しかった。
ちなみに、鍵なしトイレでは使用中であることを示すとき、普通は上着などをドア上に掛けておくことが多いようなのだが、それを盗まれたりすることもあるようなので、私はトイレ紐で対策するようにしている。ただし、紐が掛からないタイプのドアノブだった場合は、服は盗まれてもいいやと開き直ってドア上に掛けておくか、ドアを開けられることによる羞恥心や恐怖に耐える覚悟をしなくてはならないかも。近くに人がいて信用できそうだったら、使用中であることを伝えておいてもいいかと思う。

かつては有料だったサニゼットが2006年以降無料となり、今年はオリンピックに向け、パリでは公衆トイレの4割ほどを交換することにしたそうだ。これにより、今まで洗浄に掛かっていた時間が短縮され、トイレ待ちをする人が減ると見込まれているらしい。有料だったときの方が使い勝手が悪いってどうなんだろう?と、私に限らずかつてを知る人だったら、複雑な思いで振り返っているのではないだろうか?便座なしトイレも交換して~!

Follow me!