身分証明の写真

大学生の頃、写真付きのクレジットカードを作った。
フランス留学を控え、シティバンクに口座を開設したので、海外で使用するカードはそれ1本にするつもりだった。ところが、会計時にカードを渡したところ、バックヤードに引っ込んで不正利用された、という先人の話を見聞きし、急に不安になってしまった。
写真付きが絶対安全という保証はないけれど、仮に盗まれたとして、明らかに本人じゃないと分かるカードが利用されることはないんじゃないか、程度には安心できるものだった。
初めての渡仏以降、その写真付きカードは、私の海外での必須携帯品となった。

そのクレジットカードを私は現在も使用している。入会時の写真のまま更新カードが届いているため、目にするたびに私にもこんな若かりし時代が……と経る年月を感じる。
かつては本人確認が可能なことを理由に作成したものだったが、今となっては誰ですか?とかえって疑われてしまうんじゃないだろうか。他国の人の顔は見分けがつきにくいといわれているから、外国で使用することのほうがリスクがあるかも知れない。私はそのままにしているけれど、写真を差し替えることもできると思われるので、頻繁に海外でカードを使用する利用者などは、定期的に写真を新しくしているのではないかと思う。

それにしても、公的証明書となる運転免許証やパスポートの写真を気に入っているとか好きだという日本人と、私は出会ったことがない。‟日本人”と限定しているのは、フランスでのインターン期間中に、証明書の写真を気に入っているフランス人がいたからである。
ホームステイしていたお宅のマダムが、息子のcarte nationale d’identité(国家身分証明書)を私に見せてくれたとき、
「どう、とても良く写っていると思わない?」
と尋ねてきた。
そのステイ先の息子さんは整った顔立ちをしていて、笑顔がチャーミングなのだけれど、写真の彼はひどくかしこまった顔つきをしていた。不健康そうとか悪人顔に見えるような写真ではなかったものの、普段の彼のほうがいいよなぁ、と私は内心感じていた。親であるマダムとしては、どんな顔つきをしていたとしても息子は素敵に思えるだろうけれど、当の息子は?と彼の様子を窺ってみると、力強く親指を立てながら
「pas mal,hein?(悪くないでしょ?)」
と本人も気に入っているようだった。これはお国柄によるものなのかなぁ(まあ、写真も別に悪くなかったし)?
私は初回から現在に至るまで、運転免許証もパスポートの写真も、すべて好きになれません……。

そして、これらの使用頻度。車のほうは運転せずとも普段から携帯し、身分証明書としての役割を担っているけれど、パスポートは?日本での生活において持ち歩いた試しがない。旅行もすっかりご無沙汰している。前回の10年間は、一度もスタンプを押されることなく、有効期限が過ぎてしまった。
現在、4冊目。2冊目・3冊目もそれぞれ10年の期限だったけれど、写真の私はあまり代り映えしていなかった。それなのに、今回の写真はどっと経過年数を感じさせる。
なぜだ?やっぱり、旅の刺激が足りなかったせい??今回は期間中に絶対、旅行してやるぅ~!

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