フランス手話でご挨拶5~あだ名を考える~
過ごしやすい日が何日か続いている。こんな気候は年々短期間になっているので、大いに享受したい。金木犀も香ってくるようになった。香水やルームフレグランスでも取り入れられているけれど、人工の鋭利で直線的な香りと違って、鼻腔を撫でて通り過ぎるような、自己主張しつつ柔らかいこの花の天然香が好きだ。
今年の秋の私は、テレビでスポーツ観戦する時間が比較的長かったように思う。バスケ・バレー・ラグビー・それにアジア大会の各種目などに、連日沸いた(各大会の日程って今までもこんなに詰まっていたんでしたっけ?)。こちらも存分に享受したので、ロスにならないよう、シフトチェンジしていきたいところである。
バスケに関連したことで、大学の同級生の中には、確か高校時代国体に出場したとか全国に行ったことがあるとかいう人がいて、そういう人たちと体育の時間に一緒にバスケをするときには、嬉しいというよりプレッシャーのほうが大きかった。授業でも本気(マジ)。一度、パスを受けたあとの私の動きに対し、
「遅い!」
と怒られたことがある。うまく動けなくてゴメンよ。でも、私のレベルは体育の授業のみなので~。
こんなことがあったためというわけでは決してないけれど、個人的な感想として、バスケは技術的なことだけでなく、一種独特な雰囲気に乗れないとキツい。この雰囲気は、ストリートダンスとかスケートボードなどにも感じる。プレーに泥臭さをあまり感じないというか、泥臭いプレーをしていたとしても、それすらもクールに見える。ワタクシ、泥臭くプレーすることはできても、クールにはできないです……。そもそも、同じコートに立っているけれど、バスケ選手しか入れない帳が下りてないですか(流行りかぶれな表現でスミマセン)?球技は好きなのだが、全国に行くような鍛錬を積んできた人たちと一緒にプレーするのは気が引けるし、独特な雰囲気にも乗れていないから、できれば外で眺めていたいなぁ、などと消極的になっていた。
クールにプレーをする彼女らには、それぞれの特徴を表す呼びやすいコートネームがついていた。このネームは一部のチームとか地域に限られたことなのかと思っていたが、どうやらそうではなさそうなので、バスケの世界では当たり前なのかも知れない。彼女らはコート以外でもそのネームで呼ばれていたから、あだ名のようになっていた。
フランス滞在中、フランス人ってどういう風にあだ名をつけるんだろう、外国人をあだ名で呼ぶこともあるのかしら、などと何かの拍子に考えたことがあったけれど、それはほんの一瞬だけで、特に深く考えたりはしなかった。そんな発想をしたことも忘れていた頃、ニコが手話で私のあだ名:手印(またしても同じ流行りに乗っかってスミマセン)を考えてくれることになった。
「仲間内だけにしか通じないけど、シホにもあった方が便利じゃない?」
「えっ、ニコが考えてくれるの?」
(うんうん、なんだかバスケのコートネームみたい!)
手話でのあだ名なんて、ちょっとワクワクする。
ちなみに、ニコの手印は、両方の人差し指を口の両端に当て、口角を上げるようなしぐさをする(ニコニコ笑っているイメージ)。いつもテンガロンハットを被っているマチルダ(このサイト内『ある日、それぞれの拘り』でご紹介しています)は、その帽子の形の手印(両手を帽子のつばを持つような形にして額の前にかざし、片方の手を斜め上に、もう片方の手を斜め下に引き伸ばすようなしぐさ)だった。
「シホはねぇ……」
そう言ってニコは、アルファベットSの手の形(親指を外に出したグー)をファサファサと左右に振った。やる気のない日直が、ダルそうに黒板を消しているようなしぐさ。
(え、これが私の手印?)
イマイチぱっとしないというか、そもそも、何を表しているの?
「ねえ、これ、私のどういうところを表現しているの?」
ニコの答えは分かるような気がしたけれど、思わず尋ねてしまった。
案の定、肩をすくめるだけのニコ。
シホだからS。
ってことだよね?
期待していた反面、自分には特徴がないと言われたようで、激しくガッカリ。ここでもクールにはいかないのね……。
私はニコが考えてくれたこの手印を取り入れることはせず、自己紹介のときはそのまま‟SHIHO”と手でアルファベットを形どっていた。
手話のあだ名でも、どうせなら意味のあるもの(形)がいい。ということで、ポジティブな印象を与えそうな手話をいくつかご紹介(ここでも流行りに乗っているところがあります……)。
「La chance:幸運」。右手を、指を全部広げたパーの形にして、胸の前で下から上に素早くこすり上げるように動かします。「aimer:愛する」も同じような動作をしますが、こちらはパーの指がくっついていてもOKで、胸の前で下から上に撫でるように動かします。
「L’esperance:期待・希望」。親指を人差し指の隣にくっつけるグーにした両手を、右手上・左手下(15cmほど間隔を空ける)にして、細かく前後に動かしながら左下から右上に上げていきます。
「Le reve:夢」。右手をアルファベットRの形(人差し指を中指の前でクロスさせる・無量空処の手印とは異なるのでご注意を!)にし、こめかみの横で1回円を描くように動かします。
「L’etoile:星」。両手をアルファベットVの形(ピースサイン)にし、両手の指同士をクロスさせた状態(掌は相手側に向ける)で頭上を右から左へす~っと動かします。流れ星のイメージ。
「Le benefice:恩恵」。右手の親指と人差し指を、物をつまむようにくっつけ、掌を下に向け、胸の前で下に動かします。お腹のポケットにつまんだ物を入れるイメージ。
「L’intelligent:聡明さ」。右手の人差し指を額に当て、大きく円を描きます。脳が大きいことを表現するイメージ。
「agreable:快い・感じの良い」。右手を、指を全部広げたパーの形にして、手の甲を相手側に向け、空中を叩くように指を前後に振りながら口の前を右から左に動かします。表情は笑顔で(笑顔がないと、couleur:色、という意味になります)!
「gentil:親切な」。右手をアルファベットBの形(親指を曲げ、他の4本の指を全部くっつける)にし、掌を相手側に向け、頬の横に当てて1回撫でます。
「interessant:面白い」。右手の中指だけを90度倒したパーの形にし、倒した中指で胸を2回くるくると円を描くように撫でます。
「fort:強い」。右手をアルファベットSの形(親指を外に出したグー)にし、肘を曲げて自分の右肩のほうに動かします。
「parfait:完璧な」。掌を相手側に向けた右手をアルファベットUの形(人差し指と中指をくっつけたピースサイン)にし、くるりと反転させながら顎を1回叩きます(‟加トちゃんペ”の顎バージョンというところ?)。
「gagner:勝つ・(信頼などを)勝ち得る」。左手はアルファベットSの形(親指を外に出したグー)に、右手は指を全部広げたパーの形にして、右手で1回左手の上を叩きます。やった!という表情を添えることも忘れずに。
今更だけれど、ニコが考えてくれた手印は使わなかったので、シホを逆さに読んでホシ、星の手話を逆に動かすことで自分の手印にしようかな?