フランスの日常生活~課外授業で屋外アーチェリー~
インターン高校で私のチューターをしていたマリーは、プレコス(飛び級してきた早熟な生徒)のクラスを受け持っていた。そのため、私もプレコスのクラスに参加し、彼らの授業を何度か見学させてもらった。
今回は、課外授業でアーチェリーを体験したときのことをお話しようと思う。
アーチェリーの現役選手を招いて課外授業を行うとマリーから聞かされたとき、私はてっきり設備が整った公共施設に向かうのだと想像した。
ところが、私の予想に反し、授業は屋外で行われた。
向かったのは、カマルグ湿原。乗馬体験の受付場所のすぐ横にある、柵で囲われた一角を使用するようだった。
そこは開けてはいるものの、丸く囲われた場所だった。地面は土と砂が混じって埃っぽく、馬の調教場所を開放してもらったような感じだった。私は、日本の弓道場のように前方にまっすぐスペースがあるのかと思っていたので、これも予想外だった。しかも、矢の的になるようなものは見当たらなかった。
いったい、ここでどうやってアーチェリーをするのだろう?
そんな疑問を抱いていたとき、教員たちが小柄な女性を連れてやって来た。
学校が講師として迎えたのは、若い女性選手だった。フランスの高校生とそう変わらない背格好をしていたが、顔つきが少し大人びて見えるので、大学生なのかも知れない。
「先日、アーチェリーの大会で優勝したのよ」
とマリーが言っていたが、それが国内に限ってのことなのか世界規模なのかまでは分からなかった。
その女性選手は特に自己紹介もせず、男子生徒数名に声を掛け、何かを取りに行った。そして戻って来たとき、彼らは大きな木箱2つと、鹿と猪の模型を抱えていた。
彼らは私たちが立っていた柵の正面、囲いの中央よりやや遠い位置に木箱を立てて並べ、その前に鹿と猪の模型を据えた。使用する的が、テレビなどで見かける布(木片?)に描かれた円形のものではなく、この模型になるということも、私には予想だにしない出来事だった。作り物だと分かっていても、的が動物をかたどったものというのは、あまり良い気分がしなかった。カマルグは生物圏保護区だけれど、こういった対応が物議を醸したりしないのだろうか?

女性選手は、アーチェリーの用具一式を5・6セット私たちに貸し出してくれ、我々はそれを順番に使用し、鹿と猪の的を狙ってみることになった。
まず、女性選手がお手本で矢を放つ。見事、鹿の胴体に命中。
※中央の白Tシャツが女性選手

それを見ていた生徒たちが、我先にと用具を手に取り、的を射始めた。
使用方法に関する説明はナシ。
お手本を見て覚えろ、ということですか?
観察してみたところ、生徒の所作を女性選手が横で見ていて、射終わったあとでアドバイスをしているようだった。
※生徒たちの試射


私は引率教員という体なので、生徒たちの合間に1回試させてもらった。
私のイメージでは、弓を支える手と矢を引く手・そして目線が同じ高さで、支える手で的の中心を測り、狙っているのかと思っていた。しかし、実際には支える手より引く手の方が高い位置で、弓はやや下で構えているような感じだった。教わっていないので正確なことは言えないが、引く手と目線で的の中心を測るのだろうか?何となく、狙いが定まりにくい。
グズグズしていると、後ろに並んでいた男子生徒が溜息をついた。生徒たちはアーチェリーに夢中で、前の人が終わると用具を奪うように自分の射に入っていたから、この男子生徒も「早く終わらせて!」と思っていたのかも知れない。
慌てた私の手から放たれた矢は何とも頼りなく飛んでいき、的には当たらなかった。すかさず、後ろの男子生徒が「代わって」と催促してきたため、私は自分の所作を振り返ることもできず、すごすごと試射を終えた。女性選手のアドバイスは、というと、生徒の射を見ていたようで、私は彼女から助言をもらうことはできなかったのだった。
※中央で弓を引くラシェルの所作を後ろから眺めている女性選手(ラシェルも私同様、引率の一人として同行していた)

このアーチェリー体験より遡ること十数年、高校生くらいのときから、私は弓道をやってみたいと思っていた。結局先延ばしのままになっているが、人生で必ずやってみたいリストの中に含まれているので、そう遠くない将来、体験しておきたい。
弓道とアーチェリーはどんなところが違っていて、どんなところが似ているのだろう?
かつてアーチェリーでやりにくいと感じたことが、弓道でも起こるのだろうか?
弓道のほうが自分に合っていそうだなどと想像するのは、ちょっと高慢かな?