ピーターとの歩み

一番好きな児童書について聞かれたとしたら、私は『ピーターラビット』を挙げる。アルセーヌ・ルパンシリーズはもちろん好きなのだが、ときどき恐怖を煽られるような描写があり、子どもの頃恐ろしくてたまらなかった記憶がある(私は『三十棺桶島』が特に怖かった)。ピーターにもぞっとする描写はあるのだが(ピーターのおとうさんがパイにされちゃうとか、トムがねこまきだんごにされるとか)、大抵のお話は怖がらずに読めるので、こちらを一番としたい。それに、ルパンを読む前から、ピーターは私の生活の中にあった。

私は福音館書店のものを愛読してきて、現在手元にあるものは19巻までが石井桃子さん、20・21・24巻が間崎ルリ子さん、22・23巻が中川李枝子さん、『ピーターラビットのてがみの本』2巻が内田莉莎子さんの翻訳となっている。1997年に隣家からのもらい火で焼け出されたとき、焦げたり濡れたりすすけたりしたこれらの本を、私は全て焼け跡から運び出した。できる限り汚れを落とし、数日かけて乾かしてみたが、何冊かは損傷が激しくボロボロになってしまったので、やむなく買い直した。そのため、その数冊分は最初に購入したときから訳者さんが変わっているのかも知れないが、再購入前の訳を覚えていないので、変わっていても分からない。
登場人物たちの住まいや生活、湖水地方の風景描写などを読むにつけ、幼い私は空想を膨らませてきた。例えば『ピーターラビットのおはなし』だと、もみの木の下の穴って広いのかな?黒いイチゴがあるんだ!どんな味がするんだろう?柔らかい砂ってどんな感触?身体にくっついたりしないのかな?かみつれって何?など、どんどん興味が湧いてきた。
ピーターの住まいの影響から、私の場合、ツリーハウス=木の上ではなく木の下だった。男の子たちが秘密基地と称して木の上に小屋めいたものを組み立てたりするなか、あんなに目立っていたら秘密でも何でもない、やっぱりツリーハウスは木の下じゃないと、などと単独でこっそり手頃な樹洞を探しに出掛けたりしたものだ。残念ながら子どもがすっぽりと入れるような洞のある木は近隣にはなかった。代わりに、45cmほどの尺の木の枝が入る洞を見つけ、宝物を隠す体でその枝を入れておいた。数年後、その木が切られ、洞の部分が残る程度の株になっていた。まさかもうないよなぁと思って手を入れてみたところ、隠した枝(だと私は信じている)が入っていたので、「Bravo!」と一人感動を覚えたのだった。余談だが、『となりのトトロ』でメイちゃんがクスノキの洞に落ちてトトロと出遭うシーンを見たときの私は、ほ~らやっぱり、木の下の方が素敵なことがある!と訳知り顔になっていたんじゃないかと思う。
幼少期にウサギを飼っていたとき(女の子だったのでピーターではなくミミと名づけられた)は、蓋付きの籐のバスケットに入れて一緒に散歩した。この散歩ルートにはキイチゴが自生していて、摘んでバスケットの中に入れたら、ミミはせわしなく口を動かして食べていた。なるほど、黒イチゴではないけどウサギはベリーを食べるのね、とミミの様子を観察したものだ。絵心がないので(別の意味で画伯といえる)、ポターのように描き残すことはなかったけれど。
私がずっと翻訳で慣れ親しんできた『ピーターラビットのおはなし』も、本国では2022年に出版から120周年を迎え、日本でも今年の3月には川上未映子さんによる新訳版が早川書房より刊行される。川上さんの翻訳については、テレビで一部分を耳にする機会があった。通して読んでみたらどのような印象を受けるだろう。発売されたら拝読させていただきたいと思う。

以前はカラフルなBOXに入っていました
各巻の表裏表紙も白ではなくクリーム色です

ピーターラビットの人気が出たのは、某マヨネーズのCMからではないかと思う。それまでピーター関連のグッズは食器程度だったように思うのだが、その頃から食器以外のグッズも増えてきたように感じている。私は普段あまりマヨネーズを食べないのに、このときはキャンペーンの応募商品欲しさに買い込み、ハンカチをゲットした。また、某銀行がイメージキャラクターにピーターを起用したときには、一部の預金をこちらに移し替えた。埼玉県にある大学がポターの資料館を開設し、原画などを所蔵していると知ったときには、社会人になっているけれどこの大学への入学をちらっと考えたりした(資料館が一般公開されていて良かった……)。山梨県の湖畔リゾート地に昨年開業したピーターのイングリッシュガーデンへは、そろそろコロナを気にせず行けるのではないかと時期をうかがっている。2023年が卯年ということもあり、今年もちょくちょくピーターのことが話題に上ってくるのではないかと、いちファンとしては大いに期待している。
とはいえ、フランス関連のニュースにもアンテナを張っていたいし、物書きとしても挑戦していきたい!というのが今年の目指すところである。
充実した一年にするぞ~!

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