ノートルダム再開へ
2019年の火災から5年。
本日2024年12月8日、パリ・ノートルダム大聖堂の一般公開が再開される。
当初、再建には長い時間が掛かると言われていた。母は、
「私が生きている間にまた見ることができるのかしら」
などと溜息交じりに呟いていた。私は
「サグラダ・ファミリアみたいに、完成していなくても公開されるんじゃないかな」
と気休めではなく半ば確信を持って答えていたのだが、まさか5年で再開されるとは予想だにしていなかった。さすが、近年の技術には驚嘆しかない。
私が初めてフランスを訪れたとき、空港からタクシーでパリ市内へ入った。さほど遅い時間ではなかったと思うが、冬場だったので、街中はすでに夜闇が漂っていた。照明が暗いとは聞いていたが、パリのような大都会でも周囲がぼんやりとしか見えず、初の海外単独滞在となる私の心もとなさに拍車を掛けた。
タクシーがどこを走っているのか全く分からず、ホテルにはいつ着くのだろう、そもそも、このタクシーは安全なのだろうか、などと不安要素が頭の中をちらつき始め、何かあったら飛び出さねばと、私は後部座席のドアにぴったりと身を張り付けていた。このときの私は、アルセーヌ・ルパンがサラダかご(罪人の護送馬車)から脱走したときのことを想像していたような気がするので、今思い返すとちょっと恥ずかしさがこみあげてくる。
川沿いに出たので、セーヌ川だよね、あと少しでホテルへ到着かな、と窓越しに外を眺めたとき、暗闇にくっきりと浮かび上がり私の視界に飛び込んできたもの。それが、ノートルダム大聖堂だった。
美しい。
ただただ、圧倒された。
モン・サン・ミシェルにある中庭を囲む回廊が‟ラ・メルヴェイユ(素晴らしいもの・奇跡・驚異)”と称されているが、私にとっては、このときのノートルダム大聖堂がまさにそれだった。この翌日にモン・サン・ミシェルを訪れ、実際に回廊を目の当たりにしても、ノートルダム以上に感情が揺さぶられることはなかった。というより、あれから27年経っても、私の中で最高の‟ラ・メルヴェイユ”はこのときのノートルダム大聖堂なのである。
惜しむらくは、写真に残せなかったことだ。美しさに見とれてボケッとしている間にタクシーが進路を変え、カメラを構える暇さえなかった。それでも、視力を通して焼き付けられたあの景色は、今でも脳や細胞に作用して、私の体内に痺れるような余韻や震えるような感銘を呼び起こす。
一般公開再開後も今まで通り、ノートルダム大聖堂の入場は無料となるようなので、しばらくは入場数時間待ちとなることが予想される。最初の6か月間は個人での入場のみ・団体は不可ということなので、ツアーでパリを訪れた観光客も一人一人長蛇の列に並ぶことになりそうだ。大聖堂の公式ウェブサイトでは、予約システムを立ち上げたということなので、どの程度混雑緩和に繋がるのか、今後の状況が気になるところだ。
(参考:ナショナル・ジオグラフィックの記事はこちら)
現地を訪れるのは難しい……という人は、日本科学未来館で2025年2月24日まで開催されている‟特別展「パリ・ノートルダム大聖堂展 タブレットを手に巡る時空の旅」”で気分を味わうのはどうだろう?タブレット端末を使用することで、3D映像が見られたり、ステンドグラスの繊細な絵柄を拡大して見たりすることができるようだ。
私としては、この特別展も気になるけれど、またパリを訪れて、再建されたノートルダムを肌で感じたいと切実に望んでいる。