スイーツ・ノスタルジー7~雪印乳業の宝石箱~
あつ~い!
タオルで額を押さえたが、すぐにまたじんわりとした湿気に覆われる。キーボードをカチカチさせている今この瞬間も、掌がベタベタとして心地の良いものではない。
(8月になったら冷房入れよう)
本日ハ8月1日ナリ。
(もう8月だった……)
足元やキーボードの横で空気を対流させているファンはそれなりに身体の熱を下げてくれているのだが、ちょっと音がうるさい。髪の毛が顔にかかると痒くなるので、それも煩わしい。髪をひっつめ、首に冷感タオルを巻いてみる。縁側に出て蚊取り線香の煙をまといながらうちわを扇ぐか、スイカにかぶりつきそうな雰囲気だ。でも、縁側も蚊取り線香もスイカもない。何より、今、執筆中。
(テレワークの人が身支度に困るって言うの、わかるわ~)
誰も見ていないからって、この格好はないだろう、とリモコンに手を伸ばす。ボタンを押すと、液晶画面に『暖房』の表示が。最後に使ったときは、早く暖かい季節になって!と思っていたんだけど。
冷房に切り替え、温度を設定したところ、カタリと吹き出し口が開いた。だが、一向に風が出てくる気配がない。設定温度27度だとダメなのか?もっと下げろと??
(やっぱりいいや)
もともとクーラーの風は苦手だし、企業のオフィス並みに室温を下げることにも抵抗がある。
(書き終わったら何か冷たいものでも……)
そんなことを考えていたら、ふと、かつてのアイスクリームのことが思い浮かんだ。
雪印乳業の『宝石箱』は、黒の四角い紙のカップアイスで、ロッテの『爽』より二回りくらい小さかったように思う。メロン・ストロベリー・オレンジの3フレーバーがあり、バニラアイスの中にそれぞれの味の色がついた粒氷が入っていて、それを宝石に見立てていた。パッケージの蓋や側面にも、光条(十字の光の線)が入った、フレーバー色の鉱物写真が印刷されていたので、ネーミングを強く意識した商品になっていた。大人っぽいパッケージや宝石箱という魅惑的な言葉の響き、そして蓋を開けたときにキラキラと光る粒氷が、当時小さな女の子たちを虜にした。私はあまりテレビを見なかったので覚えていなかったのだが、ピンクレディーがCMに起用されていたことも、人気に拍車をかけていたようだ。
私は緑にエメラルド・赤にルビー・黄色にダイヤモンドという名称がついていると思っていたのだが、検索してみても、そんなことはどこにも書かれていなかった。多分、色から勝手にイメージしていたのだと思う。売られているお菓子をあまり買ってもらえなかったこともあって、宝石箱を手にする機会は毎年夏のシーズンに1度あるかないかくらいだったが、緑色が好きだった私は「エメラルド買って!」と母にせがんでいたことを覚えている。
これも検索して分かったことだが、緑がメロン味だったとは!普段チョイスしないフレーバーだったので選んでいたことが意外だった(好きな色の方が勝っていたのだろう)。しかも、食べていたアイスの味を覚えていなかったことに愕然とする。まあ、フレーバーは粒氷の部分だけだったから、食感程度で、ほとんどバニラアイスを食べているようなものだったけど(言い訳)。
粒氷はお米くらいの大きさだったと思うのだが、滑らかで濃厚なバニラアイスの中からときどきひんやりとした塊を感じると、より一層涼しくなった。口の中もさっぱりするし、ガリッとした歯ごたえから満足感も得られた。
同年代の人たちの間では結構好きだった人が多いようで、数年前マツコ・デラックスさんがテレビで食されていたのを見た際、「まだ売られているの?!」と嬉々として検索してみたが、結局、購入するまでには至らなかった。現在では、ロッテから業務用として販売されているようだ。でも、この商品はネーミング・パッケージデザイン・粒氷が一つになって初めて成り立っているように思う。黒いパッケージアイスって、他にあっただろうか?光条が入った写真が引き立つし、高級感がある。写真でイメージを膨らませ、蓋を開けたときに粒氷が光ることによって、自分だけの宝箱を開いたような気分になる。そして宝石のように光り輝くものを口にしたことで自分もきらめくのではないかという錯覚に陥り、うっとりとした心地を味わえるのではないか。こういったことを考えると、大人より子どもに人気だったのも納得だ。
私って子どもの頃、そんなに乙女だったかなぁと、今はないものを振り返ったりする。もし宝石箱が復刻されて久し振りに口にできたとしたら、私は目を細めたりするのだろうか?
かつてどんな気分に浸っていたかは定かでないが、キラキラしたことばかりではない世界を知った年代になって、このアイスと向き合ったときにどう感じるのか、ちょっと興味を覚えるのである。