スイーツ・ノスタルジー5~リヨンのチョコレート菓子~
先日、フランスで撮影した写真を見返した。当初は記憶の断片を探るためだったが、そのうちどっぷり余韻に浸ってしまった。
リヨンを訪れたのは、インターン期間中の4月。学校の休暇期間を利用して、4・5日一人で滞在した。旅行したいと思ってはいたものの、ヴァカンスシーズンの旅は高くつくからなぁ……などと思っていた私に、思わぬご厚意が舞い込んできた。リヨンの大学生だったマルティヌの息子さんがヴァカンス中に借りている部屋を空けるため、マルティヌから「もしリヨンに行くなら使っていいわよ」と使用許可を頂いたのだ。
マルティヌの息子さんのアパートは、ローヌ川の東側・TGVの発着駅がある市街地の一角にあった。リヨンはこの市街地のほか、ローヌ川とソーヌ川に挟まれた新市街、ソーヌ川の西にある旧市街に分かれている。歴史を感じさせる旧市街や、産業が発展してきた過程や芸術に触れられる新市街など、見どころもたくさんあるが、食に関しても非常に興味をそそられる。食料専門店や地方料理を提供する店が密集している地域では、観光客がガラス越しに店内の様子を窺ったり、入口前に置かれているメニュー表を見比べて品定めする光景をよく見かけた。一人旅ではほとんど写真ばかり撮っていて、食事は後回しにしている私も、リヨンでは1つ2つの郷土料理を試してみた(この話はまた別の機会があれば書き記したいと思う)。
大抵の場合、私は旅先の街で公共交通機関を使用せず、ひたすら歩いて回る。迷ったりすることもあるが、地図には載っていないような狭い横道には何かがありそうでワクワクするし、ばったり出くわした猫が足元に寄ってきてゴロゴロしてくれるとほっこり癒される。小さな雑貨屋のショーウィンドウで自分好みの食器やアクセサリーを見つけたら、宝物を探しあてたように心が躍る。バスなどで通り過ぎていたら分からなかったであろう、一瞬の発見をするのが楽しみなのだ。
ここリヨンでも、ぐるぐる歩き回った結果、いくつかのお気に入りを見つけることができた。雑貨などは日本に持ち帰ることもできるが、生モノはその場で頂くしかない。ということで、私は出会い頭のチョコレート菓子を、「次はいつ食べられるか分からないんだから」と自分に言い訳しながら、心の赴くままに毎日買い込んでいた。
生・ムース・タルト・プラリネなど、ケーキはタイプの異なるものをいくつか買ってみた。見た目がシンプルなものは、しっかりとした味わい。かっちりとしたチョコレート生地に洋酒を効かせ、噛みしめるとカカオと洋酒の香りが鼻の奥に広がるものなどがあった。リボン上に削ったりロール状にしたチョコや、金粉・マカロンでデコレーションされた華やかなものは、繊細な味わい。ビター・ミルクなど濃度の異なるチョコを合わせ、部分的な苦み・甘みが口の中でバランスの良い風味になるものなどがあった。
ケーキ以外では、マカロンやシンプルなナッツ入り割チョコ、ジャンドゥーヤをナッツ入りビターチョコが覆い、ゴツゴツした球状のげんこつチョコなど。リヨンはベルナシオンなど、日本でも名の知られるショコラティエがあるが、有名どころだけでなく、スタンドで売られるチョコレート菓子でさえクオリティが高い。紙袋にざっくりと入れられ、「はいよっ」と渡されるこぶし大のマカロンを、観光客や地元っ子がその場で頬張り、満足そうに微笑んでいる。スタンドで買える気楽さと手頃感。外はサックリ軽く、中はギュッと風味が詰まったクリーム。食べ応えのある大きさ。ラデュレやピエール・エルメでもこぶし大のマカロンは売られているが、この気軽さはない。それに崩れやすいから、長時間の移動には向かない。かつて2000年に語学留学していたとき、手土産用にラデュレでこぶし大のものを1個ずつパッケージしてもらった。パステルカラーの箱に入れられたそれは女性が好みそうな可愛らしいものだったが、耐久性には乏しかった。そのため、日本に持ち帰ったときには箱も中身も多少潰れてしまい、とても人様に差し上げられるものではなくなっていた(当然だが、風味も落ちていた)。当時は日本に出店していなかったから、お土産にいいでしょう!と後先考えずに行動してしまったが、マカロンなど繊細なお菓子はやはりその場で味わうのが一番!
……と自分を甘やかした結果、一人で食べるには多すぎる量を買っていた。ホームステイ先やマルティヌほか学校のみんなへのお土産も含めると、旅行中に購入したものの大半をチョコレート菓子が占めていたのではないかと思う。
写真を見返してみて、フルーツ系でもなくクリーム系でもなく、本当にチョコレート系ばっかりなのね、と我ながら苦笑してしまう。見事に統一感のある、茶系(笑)しかも、当時から私の写真は人に見せるためではなく、忘備録なのだということが改めてよくわかる。だって、写真の中に店の名前や住所・連絡先が分かる情報を盛り込もうとしている!自分ですら忘れていたけど、絶対、「次に行く機会があったらまた買いに行こう」と思って撮ったに違いない!!店の情報はさておき、ケーキは箱や包み紙じゃなく、お皿に載せて撮ったら?ケーキ、横に寄ってるよ??
もう十数年前のことになるので、今となっては売られていないかもしれないチョコレート菓子たち。
またリヨンに行くことがあったら、写真を頼りに立ち寄ってみたい。まだ売っていることを願って!