スイーツ・ノスタルジー4~GUCCIのチョコレート~
「チョコレートはダメです」
かつて皮膚科の医師からそう告げられたとき、大袈裟ではなく絶望的な気持ちになった。アレルギー体質だったので、症状が出ては名医と言われる先生を訪ね歩き、あまり改善せず別の病院へ、の連続だった。医師によって、診断も様々だ。西洋・東洋医学に始まり、食事療法や自然治癒療法、ビタミン注射を打ったり長期間パッチテストをしたり、私も随分と色々な方法を試してきた。20年以上迷走したのち、フランスにいるときはアレルギー症状が出なかったため、結局のところ水が合う・合わないとか、心の解放感の違いなのか?という自論に至った。
チョコレートが良くないと言われていたものの、フランスで口にしていたときは全く無症状だったのだから、きっと私は大丈夫?!根拠のない自己診断ほど危ういものはないが、チョコレートに関しては何とか容認してもらいたい(誰に?)。
甘いもの断ちも経験し、反動から抑制力が欠如して以降、チョコレートは私の毎日習慣になっている。
日々のことだから、当然コスパは重要である。自分の体質を考えたら、添加物などが入っていないシンプルな素材でできたものを選ぶべきと思うし、できる限りそうしたい。だが、高品質・低コスト、かつ自分の嗜好に合う商品はほとんど存在しないのだ。いくら好きだからといって、毎日ショコラティエのチョコを口にできるほどの余裕はない。とりわけ、名の知れた高級チョコとなると、自分用ではなく人様への御礼やお祝いで贈るのが相場だ。私がそれを口にすることになったのも、母から贈られてのことだった。
GUCCIがカフェやチョコレートも手がけていると知り、その時は随分手広くやっているんだな、くらいの感覚だった。GUCCIだけでなく、シャネルやアルマーニ・ブルガリなど、トップブランドがカフェを展開し、ファッションだけでなく食にもブランドイメージが定着している。名だたるグランメゾンのカフェには行ったことがなかったが、その日は母と連れ立って映画を観たあと、GUCCIカフェに立ち寄った。
「コーヒーを頼んだらチョコレートがついてきたのよ」
母は以前訪れた際の出来事をウキウキと語った。
「Gのマークが入っているチョコでね。お茶請け(ここではコーヒーですが)と思って食べたら、とっても美味しかったの!かじったあとだったけど、あなたに持って帰りたかったくらい」
そんな思いを止め(笑)、母は私にもあの感動を、と連れ出してくれることになったのだ。
スラリと背が高く、キリッと髪を1つに結んだ女性が、窓際のテーブル席に通してくれる。背筋が伸び、堂々としている彼女に、しわ一つなくパリッとした店の制服が似合っている。隙のない装いとは裏腹に、とても穏やかで柔らかい物腰。慣れない高級ブティックのカフェで緊張気味の私でも、彼女の対応に少しほっとする。コーヒーとケーキを注文し、運ばれてくるまでの間、母と映画の話をしたり、ぼ~っと外を眺めたりする。上層階のため、窓からの景観や日差しが心地良い。
ケーキとコーヒーが運ばれ、母の顔が太陽光にも負けないくらいぱあっと明るくなる。
「これが話していたチョコレートよ」
艶やかにコーティングされた四角いチョコレートの表面に、彫られたように「G」の文字が浮かぶ。大きさは3cmくらいだろうか。一口かじってみて、外と中の硬度差に驚いた。手に持ったときカッチリしていたので、板チョコのように中も固められていると思ったのだ。だが、予想に反し、中はガナッシュ。柔らかすぎず、存在感があるにも関わらず、非常に舌触りが滑らか。口の中でもたつくこともなく、すっと喉に溶けていった。
「ビター好きにはいいわよね、これ?」
私の反応を見た母は、あなたなら好きだと思ったわ!と満足そうだ。
「買うこともできるみたいなのよ。帰りに買って行きましょう」
こういうとき、スポンサーがいるのはありがたい!
カフェ入口で4個・8個・12個入りのチョコのお値段を見て、そうだ、ここはGUCCIだったんだ……と我に返る。母上様、お会計、よろしくお願いいたします!
そのとき買って帰った(買ってもらった)のは通常販売のもので、チョコ表面はG・GGのマークやGUCCIのバッグなどで使用されているデザインをあしらっていた。パッケージも、白地に縁を黒で囲んだ箱に黒いリボンというシンプルなデザイン。これがバレンタインになるとチョコ・パッケージともデザインが変わる(味も変わる)。その後、私が自分用でバレンタインの時期に購入した際は、Gマーク以外のチョコデザインが変わっていて、パッケージも茶色でGUCCIのバックデザインになっていた。
そしていざ食する段階で、せっかくの高級チョコだから、と私は1つ1つを大事に食べようとし過ぎてしまい、数粒を残した時点で賞味期限が過ぎていた。
あ~あ、早く美味しいうちに食べておけば良かったのに!でもまあ、ちょっとくらい期限が過ぎていても大丈夫でしょう。
そんな思いで一粒をかじる。
(あれっ?歯触りが違う?)
外と中の硬度差はあったものの、一体感のあったチョコが歯先でボロッと崩れた。表面がパリパリになり、剥がれたのだ。その裏面を見て、私は仰天した。なんと、カビが生えている!
キャ~!もし一口で食べてたら、このカビごと飲み込んでた!!
私はすぐさま、残っていた粒すべてを分解してみた。良かった……。カビが生えていたのは1つだけだった。私は泣く泣く、カビのあったチョコを廃棄し(本当に申し訳ありません!)、その他を一気に頂いた。だから、いいものは取っておかずにすぐ食べれば良かったんだよ~(泣)
余談だが、私は前にも海外のチョコレートを大事にし過ぎて、賞味期限が5年も過ぎていたことがあった。ブルーム現象はあったものの、混ぜ物の入っていない板チョコだったので、もったいない精神とも相まって、湯煎にしブロックチョコに作り変えてみた。そのときも、まあ、大丈夫でしょう!と口にしてみたのだが、数時間後、私の身体の至るところに、蕁麻疹に似た症状が現れた。
……アレルギー体質とかって問題じゃないよね?明らかに、食べちゃいけないモノだったってことだよね???
そんなこともあり、もし今度GUCCIのチョコを買ったら、美味しいうちに食べよう!と決意していたのに、改修のためカフェが閉鎖されると母から聞かされた。改修後にカフェを再開するかは未定とのことで、チョコレートの販売も未定。しょっちゅう買えるものではないとはいえ、もっと買っておけば良かった~(再泣)
曖昧な記憶しか残らなくなってしまったGUCCIのチョコレート。とはいえ、まったく買えないわけではない。ミラノに行けばいいのだ!まだノスタルジーにするには早い!!
どうしてもGUCCIのチョコレートが食べたくなったら、イタリアへ!行く?!かなぁ……。