ショコラホリックの自覚
チョコレートが好きだ。ないと落ち着かない。毎日1回は必ず口にしている。スーパーの箱入り・袋入りチョコからいくつか選ぶこともあれば、ショコラトリーの整然と美しくパッケージされた箱から一粒をセレクトすることもある。でも、その道に詳しいわけではない。私にとってチョコレートの存在は『ショコラホリック』、中毒なのである。
私はチョコレートだけではなく他のスイーツも好きだ。食事もちゃんと摂っているが、最近は糖質摂取量が気になるので、主食のご飯やパン・麺類を控えて甘味に充ててしまっている。本当は、きちんと主食を摂り、甘いものを控えた方が良いことは分かっているが、どうにも止められない。特に、チョコレートを食べたときの幸福感がないと、日々を乗り切れなくなっているように思う。どっぷり中毒・自分の欲求を満たすための行為だから、その道の通が持ち合わせている探求心は二の次なのだ。
1日1回の習慣がいつから始まったのか、よく覚えていない。でも、中毒を強めるきっかけとなった出来事には思い当たることがある。
少し話がそれるが、私はアレルギー体質で、社会人になってからもずっとアトピーや蕁麻疹に悩まされていた。子どもの頃は肘や膝の後ろを激しく搔きむしっていたが、年齢を重ねるにつれて部位が変化。新卒1年目の頃は営業職に就いていたが、顔や首に症状が出ていたため、サルのように赤黒く変色した顔を見た取引先の人から「その顔、どうしたの?」などと言われるのが非常に辛かった。
アレルギー症状の原因を調べるため、パッチテストを受けたこともある。蕎麦や小麦・卵・青魚などの食物や、埃・カビなどのハウスダスト、猫やダニなど生物の影響、花粉などの環境要因、一つ一つ調べてみたのだ。その過程で行ったのが、「一定期間原因と考えられる食物を摂取しない」というものだった。当時私は中学生で、昼はお弁当ではなく給食だった。給食のメニューは変えられないから、食べられるものだけ食べようと思っていたのだが、思っていた以上に食べられるものが少ない。牛乳ダメ・パンダメ・卵ダメ。先生は「お弁当を持ってきていい」と言ってくれたが、その時期は他の生徒と違うことをするのが嫌だった(目立つことをしたくなかった)ので、給食で通した。
当然、お菓子なども食べられなかったが、私は広告などの写真を見て、自分が食べていることを想像し、乗り切っていた。友達からは「余計辛くならない?」と心配されたが、昔から想像(妄想)力だけは良かったのだろう。頭をフルに働かせ、具体的な味や香りまで想像して食べた気になっていた。
そんなとき、部活(中学のときはバレーボール部に所属していた)で練習試合があり、保護者がキットカットを差し入れてくれた。断るのは気が引けたため、受け取っていたのだが、試合終了後にみんなが食べ始めたとき、いつもとは違う感覚に気が付いた。食べている自分が想像ができない。広告の写真では簡単にできていたのに。実物を目の前にしたら、食べたいという気持ちが強くなって頭が働かなくなってしまったのだ。帰宅途中、キットカットを握りしめたまま、私はボロボロ泣いていた。何度も何度も手の中の赤い包みを眺めてみる。ダメだ。やっぱり想像できない。ここにあるのに、食べられないなんて!
端から見たら、あの子は試合で相当ハデに負けたんだろうな、というくらい、ユニフォームにジャージ姿で顔をくしゃくしゃにして泣いていた私。今思っても恥ずかしい……。
家に着くなり、「これ、あげるから!」と母に手の中のものを差し出したと思うのだが、母の「これくらいなら食べても良かったんじゃない?」という反応に、今まで頑張ってきたんだから!という意地や、食べられない悔しさから、私は更にオイオイ泣いたのだった。
結局、一年半にわたってアレルギーの原因を調べたが、食物・ハウスダスト・生物・環境要因いずれも平常時は深刻な症状を引き起こすことはないが、疲労やストレスが溜まると悪化する可能性があるという結果に終わった。なんともぱっとしない。じゃあ、ストレスが溜まっている今、甘いものを食べたらかえって悪い影響が出るってこと?私のあの辛い期間は何だったんだ??
この反動で、自分の食べたいという欲求に火が付いた。確か、食物制限してから最初に口にしたのがチョコレートだったのではないかと思うが、あの幸福感!リバウンドは本当に恐ろしい。
以来、私はこの茶褐色の食べ物に依存している。