シュトーレンとクリスマスカウントダウン

12月初旬、母がシュトーレンを持って訪ねて来た。
母は毎年シュトーレンを取り寄せていて、お裾分けしてもらっている私にとっては、1年の締めくくりスイーツとして定番になっている。

フランス留学中の2000年、学校の冬休みに母とベルリンで待ち合わせして、ドイツのクリスマスマーケットを巡った。立ち寄った街の1つであるドレスデンはシュトレン(ドイツ語の発音だとこう呼ぶようだ)発祥の地と言われ、クリスマスの4週間前から少しずつスライスして食べるのだと伺った。その際、初めてシュトレンを食したのだが、そのときいただいたものは申し訳程度にドライフルーツとナッツが入ったパンの表面に粉糖をまぶしたもので、生地は硬く乾燥しており、口の中でゴワゴワと崩れた。4週間かけて食べるのだから普通のパンよりも日持ちするように作られているためなのだろう、と想像したが、私の中では、これは一度食べたらもういいかな、という印象に終わった。

日本でもクリスマス前にシュトーレンを見かけるようになったものの、私の食指は全く動かなかった。それは母も同じだったようで、
「ドイツで食べたものと同じ製法で作られているのかしら?だとしたら、わざわざ買おうとは思わないわねぇ」
と一瞥して素通りしていた。
そんなある日、母のご友人から大きな包みが届いた。まだ私も実家住まいだったので、開封に立ち会い、思わず驚きの声を上げた。
クリスマスらしい華やかなリボンが掛けられた立派な木箱の中からお目見えした、1本の白い塊。模型で作られた雪山連峰のようで、取り出してみると、漬物石かと思うくらい重量感があった。ドレスデンでいただいたのはスライスしたものだったけれど、もし1本だったとして、こんな重さになる?と、母と2人で首を傾げた。
しかも、サンドイッチなどを切るときに使用する薄いパン切りナイフを入れようとした母が
「くっ!切れない……」
と、ハードパン用ナイフでも三徳包丁でもなく出刃を取り出したときには、さすがに大袈裟じゃない?と笑って眺めていた。しかしそのあと、じゃああなたもやってごらんなさい、と母に促され、自分でも切り分けようとした際、確かに、出刃にしちゃおうかしらと思うのも分かる、と理解したのだった。
※このときは出刃を選択しましたが、後日、ハードパン用ナイフや三徳包丁で試したところ、きちんと切り分けられました。
そんなこんなで1cmほどの厚さに切り分けたシュトーレンを口にしたときの衝撃!これはドイツのシュトレンと同じ製法なのだろうか、いや、これは日本人向け、あるいはこちらのお店のオリジナルでしょう!と勝手な判断を下してしまいたくなるくらい、ドレスデンでいただいたものとは雲泥の差があった。
あちらはパンだったけれど、こちらはケーキだ。ドライフルーツに洋酒やバターが溶け合った、馥郁たる甘い香り。たっぷりと7種ものドライフルーツが練り込まれていて、いちじくなどはプチプチとした食感が残り存在感があるのに、生地がしっとりとしているため、滑らかに咀嚼できる。口腔内の水分が持って行かれることもない。
こんなに美味しいものだったんだ!
このシュトーレンと出逢った私たち母子は
「日本のシュトーレンは日本人向けに作られたもので、どれも美味しいのかも」
という先入観(偏見)のもと、この翌年、パティスリーやブーランジェリーで売られていたシュトーレンをいくつか買い求めてみた。だが、それらは全てドレスデン(パン)寄りだったため、たった1年で、私たちはこの先入観(偏見)が誤りだったことに気付かされたのだった。
このシュトーレンは特別!
というわけで、母のご友人からいただいて以来、クリスマスの定番として我が家でもこのシュトーレンを購入するようになった。私は独り暮らしになってからも、母から毎年お裾分けしてもらい、シュトーレンをお供にクリスマスまでのカウントダウンをしている。
※母は毎年栗のテリーヌも取り寄せていて、私はこちらもお裾分けしてもらっている。栗テリーヌ商品として‟ラ・メルヴェイユ”、大層美味な一品!!!

日本では数年前くらいからシュトーレンが人気を博しているということで、確か昨年の12月、『マツコの知らない世界』でもシュトーレンが取り上げられていた。最近はシーズンレスということで、クリスマス期間以外でも作られている商品があるらしい。個人的には、栗やチョコレートを使用したシュトーレンが気になったけれど、まだ手を伸ばしていない。
シーズンレスと言えば、今年9月、ジョエル・ロブションで‟オートンヌ~カシス&マロンのお菓子~”として、秋限定のシュトーレンが発売されていた。生地にカシスとホワイトチョコを練り込み、茨城県産の栗の渋皮煮がごろっと入っているということで、チョコはブラックの方がいいけれど、栗スイーツは見逃せない!と、買いに走った。1本売りだけかと思ったら、有難いことにカットでも販売していたため、端っこを1つと真ん中を2つ購入。うちの母は端っこが好きなので、実家に持参して、端っこは半分こ、真ん中は1つずついただいた。
私たち母子の好みは……。
今年も定番シュトーレンに落ち着いているという状況である。

そういえば、ドレスデンでは毎年シュトレン祭が開催されていて、確か今頃の時期(クリスマスの2週間前くらい)だったんじゃないかと思う。様々なシュトレンが持ち寄られるのだろうし、その中には、唸るように美味しいものがあるのかも知れない。日本のシュトーレンに対する先入観(偏見)への反省から、私たちがドレスデンでいただいたものがドイツのシュトレン、と思い込むのはどうかと思っているので、機会があれば、本場で再度トライしてみたい。

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