この切手がステキ!~ヴァカンス~

フランス人からヴァカンスを取り上げたらみんな仕事をしなくなるんじゃないかと思うくらい、彼らは休暇、特に夏を心待ちにしながら働いている。インターンで渡仏するまで、私が日本で勤めていた企業はどこも夏休み制度がなかった。彼らにそのことを話したとき、
「そんな会社、辞めて正解よ!」
と誰もが口を揃えたものだ。有休を取って休めるから、と付け加えても、ヴァカンスと有休は別!と畳み掛けられ、日本企業のイメージを損なわせてしまった。帰国後、私は数社で勤務したが、夏休み制度があったのは1社だけである。なんてことを彼らに伝えたら、更に印象が悪くなってしまいそうだ。独り身の私としては夏休み制度がなくても不満はないが、年間5週間程度の有休があり、ほぼ100%の消化率、しかもヴァカンス休暇も制度として確立されているフランスと比べると、日本人ももっと休んでいいはずだよ、と思ってしまう。
スペインのシエスタのように、陽射しの強い午後の時間帯に休憩を取る国や企業があるなか、フランスではこの制度を取り入れていない(一部の企業では行われているのかも知れないが)。フランス人が
「私たちにはシエスタがないから」
と隣国の制度について羨ましそうに呟き、ランチのあと重い腰を上げて仕事に臨む様子を何度も見てきた。毎日シエスタもせず頑張って働いているのだから、ヴァカンスは思いっきり休むわよ!という気概(渋々といった体ですが)を感じた。そんな彼らだから、
「夏休み制度がないから、休むときは有休使ってね」
などと言われようものなら、間違いなくスト突入。路上から制度を変えると言われるフランスにおいて、有休は有休、ヴァカンスはヴァカンスと主張し行進するであろうことが想像に難くない。

ヴァカンスのために働いているような彼らは、その期間に向け節約する人もいるので、みんなどんな風に過ごすのだろうと最初は思っていた。何度か休暇を迎えるうち、何もせずのんびり過ごす人が多いことが分かった。ヴァカンスシーズンには宿も交通機関も料金が跳ね上がるため、そのための節約といったところで、決して散財するためではないようだ。
奥様が日本人で旦那様がフランス人のカップルと一緒に少し遠出した際、奥様がその土地特有の柄があしらわれたテーブルクロスを買おうとして、旦那様に意見を求めた。彼は渋った表情で
「テーブルクロスはうちにあるじゃないか。あれはまだ使えるし。これはいらないでしょ?」
と反対。奥様はしばらく粘っていたけど、結局買うのを諦めていた。旅の記念に、なんてお土産をいくつか買っていた私はばつが悪い。旅行だからって財布の紐が緩んだりしないのね~。
また、私が2等列車のコンパートメントで出会ったご夫婦は、社内サービスのコーヒーや食堂は利用せず、飲み物やパンを持ち込んでいた。私も食事を持参していたから、
「ワオ!一緒ね!」
と奥様から共感を持たれたようで、フレンドリーに接してもらった。下車するとき、アドレスを交換しましょうと言われ嬉々とした私は、一も二もなく快諾。休暇明けにメールを送ったのだが、その後返信はなかった。奥様、親近感を持ってくれたのはそのときだけだったのかしら?ヴァカンスで浮かれていた?ただの社交辞令?あるいは、私のフランス語が解読できないひどいものだったとか(それなら、まあ、返信がなくても仕方がないか……)。
それぞれの過ごし方はお子さんがいるご家庭だとまた違ってくると思うが、大人は大抵“あくせくしない毎日”を送っているようだ。海辺で寝そべって身体を焼くとか、涼しい山の中で森林浴するとか、好きな音楽を聴きながら本を読むとか、本当に何もしない。その人が充実したヴァカンスを送ったかどうかを、休暇明けの肌の焼け具合で測ったりすることもある。そのため、日焼け止めよりも肌を綺麗に焼くサンオイルが人気だったり、飲むだけで肌の色が小麦色になるというドリンクまで売られていた。私はニコからそのドリンクを見せられたとき(彼はそれを3本購入していた)、反射的に
「身体に影響はないの?」
と尋ねてしまっていた。ニコは私の反応に
「大丈夫じゃない?ずっと定着するわけじゃないみたいだから、危ないものじゃないでしょ」
とちょっと不服そうに答えたが、継続購入はしなかったようだ。
そのため、たった3本では肌を小麦色にすることはできず(いったい何本飲まないといけなかったの?)、ニコは自分の白い肌と出費を嘆いていた。

夏のヴァカンスの充実度合いを肌の焼け具合で測っていると思われる切手がこちら。
シールタイプの切手で、シートは折り畳むと名刺サイズになります。休暇中に手紙を書く人にとって、携帯するのに便利。そして、「私はこんなに焼けてますわよ」的なデザイン。挑戦的な(切手が貼られた)手紙を受け取った人は、自分だって!と肌を焼くのでしょうか?

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