ある日、同じ服しか着ないならここの商品にする

語学留学のため初めて渡仏し、学習期間を終えて帰国目前となった1997年3月。滞在していた街を離れ、パリで数日過ごすことにしていた私は、家族や友人へのお土産を買い終え、自分のためにも何か記念に一つ……と、6区をブラブラしていた。
もともと高級な服飾とか化粧品にはさほど興味がなかった(&学生の身分ではお高くて手が出ない)ので、文房具とか小物ポーチなどの雑貨にしようかと考えていた。しかし、紙製品が想像以上に高価だったことや、これがいい!と気に入るような雑貨が見つからず、私は取り敢えず小腹を満たすため、6区にやって来たのだった。
この界隈には大好きなクリスチャン・コンスタンをはじめとするショコラトリーがいくつか点在しているうえ、田舎パンで有名なポワラーヌがあり、訪れるたびに何かしら買い求めてしまう。すでにお土産用のチョコレートは購入済だったので、昼食用とホテルに帰ってからいただくために、私は手頃なパンやチョコレートを物色するつもりだった。

メトロ駅のサンジェルマン・デ・プレを出てショコラトリーのドゥボーヴ・エ・ガレへ向かい、直径5cmくらいの丸や四角形をしたボンボンショコラを3つほど購入。チョコレートより少し大きめの白い紙に一つずつ包んでくれた。すぐにでも食べたいけれど、これらはポワラーヌ近くの公園でパンと一緒に、あとはホテルに帰ってからいただこう!
浮かれてホクホクしながら、セーヌ川に背を向け、レンヌ大通りを歩いていたときである。
モノトーンのシンプルなカジュアルウェアを扱う店舗を見かけ、私は足を止めた。
通りに面したお店の壁はグレーで、クール&スタイリッシュな印象。ガラス窓から見える店内も、黒・白・グレーを基調とするウェアがナチュラルな木製棚に整然と並んでいた。
もし仮に私がスティーブ・ジョブズ氏のように、日々の選択の中から服選びをやめ、同じ服しか着ないことにしたら、こちらの商品にするだろう。

‟Loft design by”

これが、そのショップの店名である。

最初はメンズ服だけなのかと思ったが、レディースもあり、店内を見て回ったところ、ユニセックスで着られるようなデザインが多かった。サイズ感としては、155cmくらいの私にはSでいいだろうと思ったのだけれど、手に取ったTシャツの首回りは、かなり頑丈に作られていた。伸びる心配が軽減される一方、頭が通りにくい感じがする。私は色付きのファンデーションとか塗らないけれど、しっかりメイクの人が着る場合は、フェイスカバーをしないとべったり襟元についてしまうだろう。髪型を整えてから着るのも控えたほうが良さそうだ。というわけで、身体周りはスカスカしてしまうけれど、Mサイズをいただくことにした。女性がメンズ服をダボッと着たりもするし。
SかMかで私が迷っているところを目にしたのだろう、男性店員さんが寄って来て、
「何かお手伝いしましょうか?」
とフランス語で尋ねてきた。私は、これが気に入ったのでください、と答えるつもりが、まだ駆け出しの拙すぎるフランス語しか話せなかったため、
「これ、好きです。私のです」
と言ってしまった。男性店員さんはちらっと眉をひそめ、
「自分用?それとも贈り物?」
と今度は英語で聞いてきた。フランス人はフランス語しか話さない、とかよく言われるけれど、拙いフランス語は聞くに堪えない、うまく話せないなら英語にして!とでも思っているのだろう。こういうことが何度かあり、私はその都度凹んだけれど、フランス語を勉強しに来たのだから、と開き直る。
「パケカドー、シルヴプレ(贈り物用に包んでください)」
フランス語で答えた私に対し、男性店員さんは「OK」と言って(これくらいはフランス人も普段から言っているから、気にしないようにしよう!)、私の目の前で用意し始めた。
彼はTシャツの両袖を内側に折り、半分の長さに畳んだのち、それを更に半分にして、襟元のロゴが見える長方形にした。それから、そのTシャツがシンデレラフィットする大きさの箱(ペタ靴などスリムなシューズを入れる箱くらいのサイズ)に丁寧に納めたのち、ビニールの袋に入れて手渡してくれた。服を箱に入れてくれるサービスが新鮮だったし、‟Loft design by”と蓋に書かれたブラック&グレーの箱が、これまたお洒落!
私は自分への買い物ができたことにすっかり満足し、たくさんの素敵な思い出とともに、フランスをあとにしたのだった。
※下の写真は、そのとき購入したTシャツ

その後、Loft design byは日本へも上陸。東京・新宿に出店することが分かったとき、私はノベルティ欲しさにすぐさまお店へ出向き、コットン巾着に入ったノートセットをゲットした。
※ノベルティのノートセット。未使用。

店名が‟Loft design by”ではなく、ロゴと同じ‟LDB”になっていたけれど、モノトーンカラーやシンプルかつスタイリッシュな商品ラインナップは以前のままで、安心した。
日本ではワンピースや帽子、長方形ポーチやマフラーなどを購入し、自分用なのに「贈り物です」として、また箱に入れていただいたりした(箱の蓋の文字も‟LDB”に変わっていた)。
※シンプルなワンピース。スーツのジャケットを羽織ってオフィスで、このまま食事会とかお呼ばれの席で、カーディガンにスニーカー、キャップなどを合わせて日常使いするなど、使い勝手のいい1枚。

※キャップは少し浅め。フランス人のように、頭の小さい人向き(私にはちょっと心もとない感じ)。

※長方形ポーチはペンケースにもメイクポーチにもなる。


数年後、閉店することになったんです、と店員さんから告げられたときは呆然としてしまい、
「大丈夫ですか?」
と心配されてしまった(そんなにショック顔していたのかしら……)。
日本から撤退してしまったのは非常に残念だけれど、レンヌ大通りの店舗は健在なようである。
今後、私がジョブズ的に同じ服しか着ないと決断したとき(果たしてそんな日が来るのだろうか?)、お店がなくなっていると困るので、今後も存続してくれることを切に願っている。

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